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【書評】『「怪奇大作戦」の挑戦』白石雅彦著

『「怪奇大作戦」の挑戦』白石雅彦著
『「怪奇大作戦」の挑戦』白石雅彦著

 ■特別な年 1968年の姿

 本書の著者である白石雅彦は、『ウルトラQ』『ウルトラマン』『ウルトラセブン』についてのドキュメンタリーをすでに送りだしている。今回とりあげたのは『怪奇大作戦』。円谷プロが、1968(昭和43)年7月から69年早春にかけて制作した特撮テレビシリーズだ。そこには巨大ヒーローも怪獣もあらわれず、科学を悪用した犯罪が、科学の力で解決される様が描かれる。

 白石の手法は、前3作と基本は変わらない。関係者の日記、メモ、インタビューを通して、番組がつくられた過程を丹念に再現していく。格別の特撮マニアでないかぎり、細かい制作事情の説明は読み流してかまわないだろう。前3作にない本書の価値は、1968年という特別な年の「生きた姿」を伝える点にある。

 60年代、家電の普及やモータリゼーションによって、伝統的な生活様式が急速に崩壊した。40年代生まれの知人に、こんなことを言われたことがある。「『桃太郎』に、おばあさんは川へ洗濯に行きましたって出てくるけど、私が子供のころも洗濯は川でやっていた」。洗濯機が、昔話の時代から続いた暮らしに終止符を打ったのだ。

 そうした激動は、わが国のみならず、世界中を襲った。それがピークに達したのが、1968年である。パリで五月革命が起こり、ソ連軍がプラハに侵攻した。変転する時流に対し「60年安保の敗北の後、展望が開けていなかった」と『怪奇大作戦』のプロデューサー、橋本洋二は語る。

 この発言をふまえ、白石はシリーズ第25話を読みとく。この回の犯行グループは京都の仏像を奪いつくし、文化財の価値を解する者だけの楽土に移そうとはかる。白石はこの企てから、橋本に通じる「行き先を見うしなった反逆者の精神」を探りあてる。無差別連続殺人を扱う第16話を、同時期に起きた永山則夫事件と比較する視点も秀逸だ。

 現代社会が抱える苦難の多くは、さかのぼれば1968年の「展望喪失」に行きつく。本書によって、「混迷の原像」に触れる意義は大きいはずだ。(双葉社・1800円+税)

 評・助川幸逸郎(岐阜女子大教授)

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