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【書評】『救いの森』小林由香著

『救いの森』
『救いの森』

 ■児童救命士の姿描く野心作

 大切な人を殺されたとき、犯人を被害者と同じ目に遭わせることのできる「復讐(ふくしゅう)法」が成立した世界を描く『ジャッジメント』(第33回小説推理新人賞)の著者、小林由香による野心作の登場である。 なぜ、野心作なのかといえば-。今回の『救いの森』では、子供たちが、いじめ、虐待、誘拐など命の危険を感じたときに起動させると、児童救命士がかけつける「ライフバンド」を着用している。つまりは、犯罪が行われた後ではなく、その抑止へとテーマが深化しているからである。その「ライフバンド」は義務教育期間の子供に着用が義務づけられている。そして、「復讐法」に対してこちらは「児童保護救済法」である。

 物語は、江戸川児童保護所の「救済部」に勤務する、新米児童救命士・長谷川とベテラン・新堂のコンビが4つの事件と対峙(たいじ)する構成が取られている。

 「第一章 語らない少年」では、わざと「ライフバンド」の警告音を鳴らす少年が登場し、「第二章 ギトモサイア」では継父との仲がうまくいっていない娘が思わぬ奇禍に出合う物語で、ミステリーとして見た場合、この作品がいちばん伏線の張り方が優れている。「第三章 リピーター」は子供を保護した者は報奨金がもらえるため、ホームレスに同情した少年が「ライフバンド」のリピーターになっているかと思いきや、まったく別の局面が浮かび上がってくる。

 そして「第四章 希望の音」では、友達を死なせてしまった過去を持つ長谷川を「俺たちは、救った人間に救われることがある」といって常にリードしてきた新堂に、子供に暴力をふるった疑いが浮上。彼の抱える修羅がネット上で暴露され、暴走する犯人側に長谷川が手をやく。これまでの章の登場人物も活躍し、第三章から登場する新堂の祖母キヨといった脇役の存在も小気味よい。

 親による子供の虐待死や、いじめによる自殺などのニュースが絶えない昨今、著者の筆致はどこまでも真摯(しんし)で、この一巻は、私たちをめぐる現状へのレジスタンスだ。(角川春樹事務所・1500円+税)

 評・縄田一男(文芸評論家)

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