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【欲望の美術史】宮下規久朗 フェルメールと手紙 人間の感情と、かすかなドラマ

ヨハネス・フェルメール《手紙を書く婦人と召使い》1670-1671年頃 アイルランド・ナショナル・ギャラリー Presented, Sir Alfred and Lady Beit, 1987 (Beit Collection) Photo (c)National Gallery of Ireland, Dublin NGI.4535
ヨハネス・フェルメール《手紙を書く婦人と召使い》1670-1671年頃 アイルランド・ナショナル・ギャラリー Presented, Sir Alfred and Lady Beit, 1987 (Beit Collection) Photo (c)National Gallery of Ireland, Dublin NGI.4535

 大阪市立美術館(同市天王寺区)でフェルメール展が開催されている(5月12日まで)。今回来阪した6点のフェルメール作品のうち半数の3点が手紙を扱ったものである。寡作で、世界に三十数点しか現存していないフェルメールの作品のうち、6点が手紙を主題としており、手紙を書いたり読んだりする情景はフェルメールがもっとも好んだ主題であったのはたしかだ。

 17世紀のオランダでは、商業の発達により識字率が格段に上昇し、郵便制度が整備されたことから、手紙という新しいメディアが一気に社会に普及した。手紙の文例集はベストセラーになった。他の西洋諸国では、手紙は王侯貴族や知識人階級に限定されていたのだが、オランダでは普通の市民が友人や恋人どうしで気軽に手紙をやりとりするようになった。手紙はいわば、現代のネット社会のSNSのような時代の最先端のツールだったのである。

 手紙を持ってきたメイドを見上げる女性を描いた「恋文」。カーテンをたくし上げた入り口から室内をのぞき見るような構図となっている。女性は不安な面持ちで召使いを見上げているが、召使いはほほえんでいるため、何かよい知らせを持ってきたようだ。これはタイトルとなっているとおり、恋人からのラブレターである。背後に見える画中画は海を漂う船の絵であり、それはオランダでは恋する者を象徴するためである。これはオランダだけの象徴であったが、当時のオランダでは多くの男性が仕事のために日本をはじめ海外各地に出ており、夫や恋人からの手紙の多くも船便であったことに関係するのだろう。

 この展覧会に出品されているハブリエル・メツーの「手紙を書く男」と「手紙を読む女」という対作品は、フェルメールに影響を与えた可能性が指摘されている。ここでもやはり手紙を読む女性の背後には船の絵があり、召使いがそれを見ていることから、手紙は恋文であることがわかる。

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