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【本ナビ+1】『家康に訊け』加藤廣著 作家・北康利 現代日本の難局に響く遺言

北康利さん
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 75歳という遅咲きのデビューながらベストセラーを連発。昨年惜しくも世を去った加藤廣の遺作集である。表題作は小説ではないが、元経営コンサルタントの著者が歴史をどう分析するかを熱く語り、代表作を描いた背景も明らかにされていて加藤ファンにはたまらない作品だろう。

 そんな彼は、現代日本の難局を戦国の三傑の中の誰に任せたいかと問えば、間違いなく家康だと言い、彼の生き方は「きっと現代日本に最善の『解』をもたらしてくれるだろう」と語る。「家康の生きた時代は、近代日本と違って自国防衛を他国に委ねることなど夢想もしなかった。すなわちそれは自国の滅亡を意味するからである」という一節は、われわれへの遺言のような気がしてならない。

 当初の家康は織田社長の下の社外取締役にすぎなかったという解説にはじまって、遠交近攻策など、家康の戦略思考の読み解き方は、企業経営分析のそれを彷彿(ほうふつ)とさせる。

 随所に具体的数字が出てきて説得力を持たせ、その緻密な論理展開は“老い”を全く感じさせない。

 家康の持っていた高度な危機回避能力、天下を取るまでの謀略の数々と、天下を取った後には打って変わって王道を歩む天下人・家康の融通無碍(むげ)さについての解説は思わず納得の内容だ。

 本書の後半に収録されている『宇都宮城血風録』は亡くなった前年に連載された作品だが、地味な題材ながらはらはらどきどきの連続で、女性剣士のいきいきした活躍もあって一気に読ませる。読後感は爽快だ。80歳を超えてなお、これだけのみずみずしい感性と旺盛な好奇心、明晰(めいせき)な知性を保ちえた秘訣(ひけつ)を、それこそ加藤先生に訊(き)いてみたかった。(新潮社・1600円+税)

                   

 ■『本当はブラックな江戸時代』永井義男著(辰巳出版・1400円+税)

 最近は江戸ブームだが、あえて江戸時代の暗黒面に目を向けた本を取り上げてみた。

 現代のサラリーマンにあたるのが丁稚(でっち)奉公だとすると、それは年に2日しか休みがなく、40代まで独身を通し、のれん分けでようやく妻帯できる人生だった。現代のブラック企業など天国に等しい。孝の道を説いたのも、老親の介護を家族内で完結させるためだった。セーフティーネットのない社会の過酷さを痛感し、現代社会のありがたさを実感させてくれる一冊。

                   

【プロフィル】北康利(きた・やすとし) 昭和35年12月、名古屋市生まれ。東京大学法学部卒。評伝を中心に『白洲次郎 占領を背負った男』(第14回山本七平賞)など著書多数。

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