PR

ライフ ライフ

【書評】『おやすみの歌が消えて』 リアノン・ネイヴィン著、越前敏弥訳

『おやすみの歌が消えて』
『おやすみの歌が消えて』

 ■子の視点で描く悲しみと愛

 なんて悲しく苦しい小説だろう。一人の人間が死ぬこと、その事実になすすべもなくただ立ち尽くして、涙を流し、悲しみに包まれる人々の姿を、少年の視点から描いている。その少年もまた当事者であり、大好きな兄を失った。

 パン、パン、パンという音が、6歳のザックの耳をうつ。ゲームの効果音のように思えたが、それは銃を撃つ音だった。小学校に侵入した者が銃を乱射していたのだ。ザックは教師のとっさの判断からクロゼットに隠れて難を逃れたが、19人の命が奪われ、その中には3歳上の兄のアンディも含まれていた。

 その日から生活は一変する。母親は悲しみにくれ、ときに怒りをぶちまけ、父親は家族を支えようとするが、あることから秘密が明らかになり、家族はばらばらになる。感情の行き場を失った母親は、ほかの遺族とともに殺人犯の両親を監督保護責任のかどで訴えようとするのだが…。

 題材からみれば、無差別殺人を扱った小説と見えるだろう。実際、その悲劇に巻き込まれた家族の悲哀と絶望と苦悩を描いているけれど、次第にそういう側面が薄れ、家族を突然失ったとき人はどう対処するのか、どう悲しみを乗り越えていくのかに重点がおかれる。無差別殺人、暴力の連鎖、正義の追求、罪と罰などよりも、誰もが体験する突然の喪失と悲しみ、共感と愛の希求、そして人々を繋(つな)ぎとめようとする子供の勇気などが強く謳(うた)われるようになる。

 物語は少年ザックの一人称一視点。語り手の年齢を意識して、はり、ぼち、おはか、ろうかまで平仮名にして読みづらい点もあるけれど(年齢に比して表現力の高い少年にあわせて漢字を使うべきだった)、訳文は生き生きとしていて伸びやか。冒頭の襲撃場面から緊迫感にあふれていて引き込まれるのは、しぐさの一つ一つを注意深く拾って、人物の心情を掬(すく)いだし、読む者の心を震わせるからだろう。

 どこまでも悲しく苦しいけれど、最後の最後に温かな感情が醸しだされる。子供の視点だからこそ描ききることのできた、生きることの悲しみと力強い愛の物語である。(集英社・2200円+税)

 評・池上冬樹(文芸評論家)

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ