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【書評】『戦没画学生 いのちの繪 一〇〇選』窪島誠一郎文、無言館編

『戦没画学生 いのちの繪 一〇〇選 窪島誠一郎文、無言館編』
『戦没画学生 いのちの繪 一〇〇選 窪島誠一郎文、無言館編』

 ■人間の尊厳問いかけてくる

 長野県上田市の山中にある「無言館」を、僕は2度体験している。1997年開館。現在、130人の戦没画学生の作品200点近くを展示している。主宰する窪島誠一郎氏が全国を行脚し、こつこつと集めたものである。「戦争という絶対悪を前にした若者たちがどう生きたか」を伝える青春の記録だ、と氏は言う。この書は、それらから100点を選び、窪島氏の文章を添えた画集である。

 家族を描いた絵に惹(ひ)かれる。東京美術学校(現東京芸大)在学中に応召し、43年8月、ニューギニアで戦死した伊澤洋が描いた一枚。和服姿の両親と妹、新調の背広を着た兄、カンバスに向かう自分自身。紅茶のカップを前に、蓄音機から流れる音楽に耳を傾けつつ、くつろいでいる。暖かさを感じる絵だ。だが、遺族(兄)は言う--栃木の貧乏農家にこんな時間はなかった。出征前の、せめてもの希望だったんじゃないか、と。

 ふるさとを描いた絵もある。吉岡辰雄は東京美術学校を卒業していたが、45年8月沖縄で戦死。陽光を浴びて稜線(りょうせん)をくっきりと見せる山肌、手前の平原をゆったりと流れる川。黒々と静まり返っているが山の麓には村落があるようだ。「こんな静かな海のあるところで、どうして戦争をしなければならないんだろう」と辰雄は言っていたという。

 町井邦夫の自画像は印象的だ。黒いジャンパーに身を包み、大きな丸い眼鏡をかけた四角い顔が、こちらを鋭く見つめている。バックも漆黒に塗り込められ、深く意志的な思索を感じさせる。邦夫は終戦とともに復員したが、45年10月、横浜で病死した。

 今、これらの絵が見る者の胸をゆすぶるのはなぜか--私たち自身が自らの「いのち」のありようをたしかめ、振り返ることになるからだ、と窪島氏は言う。

 一人の人間が継続していこうと考えていること、日常の営為--それらすべてを断ち切ってしまうのが戦争だ。人間の尊厳とは何か、と絵が問いかけてくる。戦後七十余年を経た今、「いのち」について考えることをあらためてうながされる書である。(コスモ教育出版・4500円+税)

 評・池辺晋一郎(作曲家)

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