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【書評】『歴史という教養』片山杜秀著

『歴史という教養』
『歴史という教養』

 ■「野蛮人」にならないために

 昨今、歴史を題材にした教養書が人気を集めている。社会不安が複雑に絡まり合う世相において、歴史という大河の流れの中に教訓や最適解を見いだそうとする人が増えているのだろう。

 歴史を知るという行為は、確かに重要である。歴史とは人類にとって最良の教科書といえよう。だが、その読み方には独特の困難さがつきまとう。奥行きのある歴史的思考を健全に育み、的確に習熟していくためにはどうしたら良いか。著者は柔らかな語調の中に鋭い寸言を混ぜる。「野蛮人とは歴史を忘れる人のことでしょう」。思わずドキリとさせられる言葉である。

 「歴史を学ぶ」とは、人名や年号を単純に整理して記憶することではない。固有名詞の背景に横たわる無辺の広がりを十分に認識したうえで、短絡に走ることなく、歴史へのまなざしを細やかに構築していく姿勢が重要である。重層的で豊かな歴史力を身につけなければ、何を言っても唇寒し。一面的なものの見方に足元から引きずり込まれてしまうことになる。

 巷間(こうかん)、「歴史は繰り返す」とも言われるが、何度も同じ轍(てつ)を踏んでしまうのは、歴史へのアプローチの過程にスキや甘さ、粗雑さがあったからということになろう。その部分を周到に埋めていくのが、歴史教養書の役割である。

 本書では「温故知新主義」「遠近両用の歴史センス」「歴史の感度の充実」「歴史の免疫を足らせましょう」「史観のパターンを整理しておく」といった親しみやすいフレーズを通じて、歴史との程よい処し方が丁寧に語られる。大東亜戦争に関するノンフィクションの取材を続けている私としては、「細部にこだわればこだわるほど歴史は歴史として生き生きとしてくる」という一節に膝を打つ思いを得た。

 はたして、現在の日本に健全な歴史力はあるのか。「歴史が泣いている」と警鐘を鳴らす著者の以下の言葉が強く印象に残る。「歴史は泣くものなのです。今も泣いていますよ、あなたの耳元で」

 野蛮人にはなりたくないものである。(河出新書・800円+税)

 評・早坂隆(ノンフィクション作家)

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