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【理研が語る】失敗作から学んだ研究の快感 金水縁

失敗作から学んだ研究の快感
失敗作から学んだ研究の快感
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 博士課程の時、私は細胞内で作られる活性酸素を検出する研究を行っていた。活性酸素に結合して発光する分子を設計・合成し、その成果は国際特許の出願と商品化に結びついた。結果的にこの研究は成功したと考えている。

 実は、スポットライトを浴びた成功作の裏には一つの失敗作があった。その分子は、活性酸素を検出できず、水に溶けにくく、生体での使用に向かなかった。廃棄しようと思っていた当日に開かれた研究室の報告会で、この失敗分子がアルコールに溶かした時は鮮やかな青色を示すが、水に溶かすと透明に近い薄い青色になることを報告すると、当時の指導教官から「もしかして水の中で独特な集まりを作っているのでは?」というコメントをもらった。

 水に溶けにくい分子を水に入れると、大抵はランダムに集まって固まりのような沈殿物になる。だから、溶けにくい分子が水の中で自然と規則正しく集まることは、とても珍しい現象である。化学合成の初心者だった私がたまたま設計した分子のおかげで、このような発見に出会ったのだ。当時の研究課題とは方向性が異なっていたにも関わらず、私が生んだ分子がこんな面白い現象を見せてくれるのなら、自分の手でその原理を解明しなければならないと思った。

 過去の論文をたくさん調べてみたが、私の分子と似ている前例を見つけることはできなかった。仮説を立てては、結局間違っていたことに気づく日々が続くまま数カ月が経ったある日、問題解決の糸口となるアイデアを突然思いついた。「この分子同士の向き合い方が集まりを安定化させるんだ。予想外の物性も全て説明できる!」。何年たっても忘れられない痛快な瞬間である。

 成功作と失敗作という2つの分子のおかげで、私は2種類の研究を経験することができた。1つは明確な目標に向かって進んでいく研究。もう1つは未知の自然現象を発見してから、その原因を解明する研究。私に研究の快感を教えてくれたのは後者であった。謎を解くために、他分野の論文を読んだり、専門家に助言を求めたりしながら自分なりの答えを模索していく過程。単なる好奇心を解消するだけではなく、自身の識見を広げることもできた。

 今、私は人々の健康、疾病予防に貢献できる最先端の分析技術開発をめざしている。その旅の中で、また新たなインスピレーションを与えてくれる「失敗作」との出会いを楽しみに待っている。

 金水縁(きむ・すよん) 理化学研究所生命機能科学研究センター細胞システム制御学研究ユニット・基礎科学特別研究員。韓国の大学を卒業し、2015年に大阪大学工学研究科応用化学専攻で博士号取得。同大産業科学研究所特任助教を経て、2018年より現職。一分子感度での診断技術について研究している。

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