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【本郷和人の日本史ナナメ読み】中世の男女観(下)「平安美人」どこまで絵の通り?

 それから、花のかんばせは絵巻物に描かれている「引目(ひきめ)・かぎ鼻」です。目はあるかないかの細目が良い。鼻も自己主張のない、ちょこっとした鼻。それが美しいのだ、となっている。本当かな? 絵画表現の約束事にすぎないんじゃないのかな。たとえば一昔前のインド映画ではキスシーンはご法度だった。人前でキスするなんてとんでもない。それで男優さんが掌(てのひら)をドン!と前に突き出すしぐさをすると、それはキスをしたことを示す、という約束事、象徴的なポーズがあったそうです。

 この考え方の傍証(?)になるのが、浮世絵の美人。江戸時代末期でも、浮世絵の美人というと、つり上がった細い目になる。でも写真が広まった明治時代の美人たちの写真を見ると、ぼくたちがいうところの美人とたいして変わらない。だれもあんな特徴的な目の人はいない。やっぱり「引目・かぎ鼻」は写実が重んじられない時代の、あくまでも実態を反映しない「美人のお約束」にすぎないのかな。そう思っていました。

 ところが、鎌倉時代後期に成立したという『男衾三郎絵詞(おぶすまさぶろうえことば)』を見てびっくり。武蔵の有力武士、男衾三郎は兄の忘れ形見を養います。この少女がとても美しいのに対して、三郎の実の娘はかわいくない。そこへ都から貴公子がやってきます。三郎は自分の娘を彼の妻にしようと画策しますが、観音さまの導きを得て、姪(めい)の美少女が貴公子と結ばれるというお話。『絵詞』という作品はストーリーに絵が付随します。そこで美少女の絵を見ると、これぞまさしく「引目・かぎ鼻」。京都のお姫さま風に描かれています。そこで彼女の恋のライバルである「醜女(しこめ)」の絵を見て驚いた! 目はぱっちりとしていて、鼻はすっと高い。ショートヘアでパーマをかけたようなくせっ毛。え、これが「醜女」なの? 現代のぼくらから見たら、十分にかわいいじゃないか。

 これって、『源氏物語』の太っちょがすてき、と同じではないでしょうか。価値観が違う。美的感覚が違う。まあ、バブルの頃の「ワンレン・ボディコン」や、「ソフトスーツ」、いま全く見ませんものね。美しさ、かっこよさって変化するものなのかもしれない。それは心にとめておいた方がよいのかもしれません。

                   

 次回は4月4日に掲載します。

                   

【プロフィル】本郷和人

 ほんごう・かずと 東大史料編纂所教授。昭和35年、東京都生まれ。東大文学部卒。博士(文学)。専門は日本中世史。

                   

【用語解説】賀子内親王

 1632~96年。史料編纂所の模写のうち、お姫さまというとこの方。父は後水尾天皇。母は徳川和子(まさこ)(2代将軍秀忠の娘)。13歳の時に内親王宣下を受け、このときに「賀子(よしこ)」と名乗る。翌年、従兄の二条光平(母が後水尾天皇の同母妹、貞子内親王)に嫁ぐ。2人の間には姫が1人生まれ、この女性は徳川綱重(3代将軍家光の子。6代将軍家宣の父)の正室となった。

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