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横山秀夫さん、6年ぶり長編「ノースライト」 哀切なミステリー

 ほかの横山作品と同様、強い負荷をかけられた主人公の葛藤が物語を牽引する。バブル崩壊で仕事を失い、やがて離婚。中学生の娘と月に1度しか面会できない青瀬は、小さな設計事務所で惰性で図面を引いている。だが謎に包まれた施主を捜す過程で人生観も少しずつ変わる。題名にある、どこか控えめなノースライトに包まれるようにして浮かび上がってくるのは、欠落感を抱えた家族の、そしてバブルの〈敗残兵〉として辛酸をなめた男の再起の物語だ。

 「人間がつぶれたままの状態でいることは自分には想像できないんです。たとえつぶれても、10、20年がたち、亡くなる直前になって、ふっと自分の人生に何かの益を見いだすことができたら、それもまた再起ですよね。見た目では分からない、本人が口にしない心の中の再起の兆しも、小説だったら秒単位でトレースできる」。だから人物の心の声を、緻密に、熱量をこめて描写する。

 「人間は人間を見誤る。見えなかったものがどこかの段階で見えてくる、それが人生なんだ-。自分がミステリーにこだわり続けるのは、そんな思いがあるからなんですよ」

 ■心理の普遍性

 雑誌連載は18年に終わったが「小説の求心力が作れなかった。職業作家の手練手管をすべて投入して書き直そうと思った」。結果、ストーリーは根底から変わった。単行本の冒頭には、連載に伴走し4年前に亡くなった編集者への献辞をかかげている。

 警察の広報官を描いた前作『64』は英推理作家協会賞インターナショナル・ダガー賞の最終候補となり、今年、独ミステリー大賞の国際部門で第1位に選ばれた。デビュー短編集『陰の季節』も近く英国で刊行される。「いわゆる日本的な組織と個人の関係に特化して書いてきた作品が、個人主義が発達した国々でも読まれているのに驚いた」。横山ミステリーの普遍性を物語る快事でもある。

 「『個人で生きる』という意志が強くても、みんな深層では、いろんなしがらみに縛られているのかもしれない。だったら、どんどん書いてやろう、と」

     

 〈よこやま・ひでお〉昭和32年、東京生まれ。上毛新聞記者などを経て、平成10年に「陰の季節」で松本清張賞を受けた。『半落ち』『第三の時効』『クライマーズ・ハイ』など、主要作品が軒並み映像化されている。

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