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北海の巨大風車に映る日本の未来 Jパワー、世界最大級の洋上風力計画に参画 再エネ新規開発100万キロワットへ

 ロンドンから北に約250キロ離れたイギリス東部の北海沿岸。かつて海底油田・ガス田の開発が進み、資源の宝庫だった真っ青な洋上を臨むと、沖合5キロほどの近海に直径約80メートルの白い羽根が回る大型風車が林立する。海から生えたように並ぶ風車の回転で電気を生み出す洋上風力発電で、世界最先端を走るイギリスの現状を象徴する風景だ。

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 石油、ガスの枯渇が迫る北海が新たな再生可能エネルギーの一大生産地に移行しつつある中、沿岸からさらに離れた約30キロの沖合で世界最大級の洋上風力の建設計画が動き出している。電源開発(Jパワー)が昨年8月に参画を決めた「トライトン・ノール洋上風力発電所」だ。

 沿岸からの距離30キロの広大な海域に、最新鋭の直径約160メートルの羽根を持つ単機発電容量9,500キロワットの巨大風車90基を設置し、発電する。出力は計86万キロワットと大規模火力発電所並みで、2021年の運転開始を目指して建設工事が進んでいる。

トライトン・ノール洋上風力発電所の建設予定地
トライトン・ノール洋上風力発電所の建設予定地
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 参画を担った末永孝国際業務部・部長は、数年前に初めてイギリスで近海に並ぶ風車を見て、「日本の将来を見る気持ちになった。今回は発電所の建設段階から参画し、国内の洋上風力の普及に活かしたい」と力を込めた。

 Jパワーは、計画を主導するドイツの再エネ企業イノジーが主導するプロジェクト事業会社に25%を出資したほか、土木、電機系の技術者2人を現地に派遣して、洋上風力のノウハウを得たい考えだ。

世界をリードする英国プロジェクトに参画する意義

 世界の洋上風力設置容量のうち欧州が8割強を占めるなかでも、イギリスは世界トップの導入実績を持つ。なぜなら、北海海域は風況がよく水深が遠浅であることから、洋上風力に適した環境なのだ。特にイギリスは、北海油田の生産落ち込み以後、政策的にも洋上風力発電が推し進められていることも理由に挙げられる。

 今回、Jパワーは社員の受入れが可能な案件等幾つかの要件を想定しながら、欧州主要事業者との間で案件参画に向けて地道に協議を重ねてきたという。「海外洋上風力事業への参画は当社にとっても初めてであるだけでなく、その時点では日本の電力会社でも初めて。前例がないなか、チーム一丸となって案件精査に取り組んだ」(末永氏)という。

J-POWER国際業務部の末永孝部長
J-POWER国際業務部の末永孝部長
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 Jパワーが新たに得たいと考える「洋上」のノウハウは、天候や海象など洋上の環境での工事工程管理や、日本とは異なる分割発注方式における建設契約マネジメントの仕方など建設段階の知見から、運転開始後の保守管理・メンテナンス方法など、多岐にわたる。

普及の布石打つ響灘

 Jパワーは風力を水力に次ぐ再エネの中心電源に位置付け、00年12月に運転を開始した苫前ウィンビラ発電所(北海道)を皮切りに整備してきた。環境への影響や地元の理解に慎重に配慮しながら進め、18年3月末時点の発電能力は国内22カ所計約44万キロワット(持分)と、風力でシェア約13%の2位を誇る。19年度にも、せたな大里ウインドファーム(北海道)など2カ所計約9万キロワットが運転を始める予定だ。

J-POWERが運営する苫前ウィンビラ発電所(北海道)
J-POWERが運営する苫前ウィンビラ発電所(北海道)
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 昨年4月に策定した中期経営計画は、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」を踏まえ、脱炭素化の姿勢を鮮明にし、再エネを現状の約900万キロワットから、25年度までに新規開発で「100万キロワット規模」上積みする目標を掲げた。拡大の柱となる水力や風力、地熱のうち、期待が大きいのが洋上風力だ。

 洋上は陸上に比べて風速が強く、かつ安定している上、立地・環境上の制約も陸上より少ないことから、海洋国家の日本は新規立地の余地が大きい。このためトライトン・ノールと並行し、国内でも普及への布石を打つ。

 九州の北端に位置し、自動車や鉄鋼など製造業が集積する北九州市。季節風の影響を受けやすい日本海を臨む響灘地区で、洋上風力の国内普及の成否を占う事業の下地づくりが着々と進んでいる。Jパワーや九電みらいエナジーなど5社が沖合に広がる2700万平方メートルの海域に、最大22万キロワットの発電所をつくる計画。22年度の着工に向け事業化調査を続ける。

 トライトン・ノールに駐在するJパワーの技術者2人は定期的に、風力事業部とテレビ会議を開くなどして、プロジェクトの進捗(しんちょく)や課題、対応策等について協議して、成果を響灘や後続の洋上プロジェクトに直ちに反映していきたい考えだ。

 日本の洋上風力は現在、その殆どが国の実証事業だが、「響灘は民間企業が主体となって運営する商業ベースの先駆けとなる大規模なプロジェクトになる見込み」(Jパワー)。軌道に乗れば脱炭素化に弾みがつくほか、建設で製造業や輸送、海洋など幅広い産業に恩恵がおよぶため、地元は「地域経済の活性化や新規雇用につながる」(北九州市)と期待する。

J-POWERの風力発電事業
J-POWERの風力発電事業
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日本での洋上風力普及への課題と展望

 政府は昨年7月に改定したエネルギー基本計画で、再エネの主力電源化を打ち出し、陸上の適地が限られる日本は「洋上風力の導入拡大は不可欠」と明記した。同11月には、一般海域の特定区域を独占利用できる期間を従来の3~5年から、最長30年に延長する「再エネ海域利用法」を成立させ、普及を後押し。30年度の電源構成で想定する風力1000万キロワットのうち、洋上は80万キロワットを占める見通しを示す。

 太陽光以外の再エネ普及の加速が難しい中、「風力は先行する欧州のように、急速にコスト低減が見込める有望な再エネ電源」(経済産業省)と説明する。欧州は各国政府がルールを整えて開発リスクを減らし、事業者が電気を買い取ってもらう価格を入札で決める制度で競争を促した。

 結果、00年代初頭には陸上でも20円近くだった風力の発電コストは、効率の良い大型風車の開発や建設期間の短縮などで「近年は(洋上でも)落札価格が10円未満の案件が続出している」(同)

欧州各国の洋上風力発電の入札結果 出典:資源エネルギー庁資料を抜粋
欧州各国の洋上風力発電の入札結果 出典:資源エネルギー庁資料を抜粋
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 これに対し、陸上風力でコスト比較した場合、日本は13.9円と、世界平均の8.8円の約1.6倍と割高なのが現実だ。

 欧州は風車メーカーや港湾整備、洋上工事の事業者のサプライチェーン(供給網)が整うが、日本ではルール整備が遅れている状況だ。政府が新法で環境を整える中、残る課題は「サプライチェーンを整え、発電コストを下げ、競争力のある電源にすることだ。関係するそれぞれが、洋上風力のマーケットを新たに切り開いていくという強い思いで臨んでいくことが大切ではないか」と末永氏は話す

 また、日本特有の課題もある。洋上風力は海底に基礎を築き風車を建てる「着床式」と呼ばれる工法が主流を占める。トライトン・ノールなど欧州の海域は、沿岸から40~50キロ程度離れても水深が20~40メートルと遠浅で、着床式に適した地形とされている。

 一方、日本は制約の少ない遠洋に出ると、着床式の設置が難しくなる深い水深の海域が多くなり、普及のハードルになると考えられている。

洋上風力発電の形態と水深の関係 出典:“Dynamics Modeling and Loads Analysis of an Offshore Floating Wind Turbine”(2007, NREL)からNEDO作成
洋上風力発電の形態と水深の関係 出典:“Dynamics Modeling and Loads Analysis of an Offshore Floating Wind Turbine”(2007, NREL)からNEDO作成
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 Jパワーが注目するのが、洋上に浮かべた構造物に、風車を乗せて係留する「浮体式」と呼ばれる風車基礎工法だ。昨年9月には、フランスで浮体式の実証化で先行するエネルギー企業、エンジー社と協業に向けた覚書を締結。両社でワーキンググループを立ち上げ、日本での導入可能性に向けた技術検討を始めた。浮体式は着床式と比べて建設費が高いが、末永氏は「日本は将来的に浮体式が導入される可能性が高く、事業化に向けたノウハウを得て、日本の洋上風力開発が本格化していく中で、当社が主導をとれるよう積極的な取り組みを続けていきたい」と語る。

 黎明(れいめい)期を迎えた日本の洋上風力。Jパワーはトップランナーとして市場を切り開き、再エネ新規開発100万キロワットの目標達成につなげ、脱炭素化への挑戦を続けていく。

提供:J-POWER(電源開発株式会社)

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