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【この本と出会った】『少年キム』ラドヤード・キプリング著、三辺律子訳

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石濱裕美子・早稲田大学教授
石濱裕美子・早稲田大学教授

 □早稲田大学教授・石濱裕美子

 ■チベット史理解への洞察も

 チベット難民のジャムヤン・ノルブが2001年に著した『シャーロック・ホームズの失われた冒険』の解説を書いた際、彼の愛読書と知って手に取り、その面白さにたちまち夢中になった。

 主人公のキム(キンバル・オハラ)はラホール(現パキスタン)のストリートで「みんなの友達」として生きる孤児である。両親は英国人であるが、幼いうちに亡くなったため、英国人意識はない。

 ある日、キムはチベットから仏跡巡礼にやってきた老ラマ僧と出会い、その高潔さにひかれて弟子となる。キムはストリートで身につけた口八丁手八丁(これが面白い)でラマ僧の旅をエスコートし、一方のラマ僧もキムをたしなめつつ導き、2人の間にはやがて父子のような情愛が通い始める。

 2人の旅は、キムの父親の属していたマーベリック連隊と出会い、キムが英国人と認知された瞬間に中断する。キムは「英国人」になるために学校に入れられ、やがて孤児時代に身につけたさまざまな人種に化ける能力を買われてスパイとなる教育を受ける。こうしてしたたかな美青年へと成長した16歳のキムは、再び老ラマ僧とともに聖河を求めて旅立ち、当時英国がロシアとの間で繰り広げていた諜報戦、グレート・ゲームに巻き込まれていく。

 こう述べていくと、本書はスパイ・アクション小説かと思われるかもしれない。だが、スパイうんぬんはあくまでも時代背景にすぎず、創作の力点はキムがチベット僧との触れ合いを通じて精神的に成長していく姿に置かれている。

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