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【話の肖像画】NHK元アナウンサー・鈴木健二(90)(6) 月面着陸の「沈黙の中継」

「クイズ面白ゼミナール」で教授役を務めた鈴木健二さん(NHK提供)
「クイズ面白ゼミナール」で教授役を務めた鈴木健二さん(NHK提供)

 〈NHKアナウンサーとして初任地の熊本から東京へ戻り、報道の生中継などを任されることに。ときは日本の高度経済成長期。黒部ダムの完成(昭和38年)、東海道新幹線の開通(39年)、アポロ11号の月面着陸(44年)など歴史的な瞬間を伝えることになる〉

 私が36年間のアナウンサー生活の中で「最高のアナウンスだった」と自負しているのが、アポロの月面着陸の際の“沈黙の中継”です。時間にして、長くても1分ぐらいだったでしょうか。私は何も言わず、無言で見守り、画面では(アポロ11号の)アームストロング船長の声だけが淡々と流れました。

 瞬間的に判断したことです。人類の歴史上初めて、月から人間の声が届く。永久に記録される映像でしょう。そんなときに、お粗末なアナウンサーの声をかぶせる必要がどこにあるでしょうか。私はとっさに技術の連絡ラインで言いました。「アナウンサーの鈴木です。着陸の際に私は黙り、本人(宇宙飛行士)の声をそのまま乗せます。放送事故ではないのであわてないでください」。恐らく世界中で日本だけでしょうね、“沈黙の中継”は…。

 でもね、NHK創立以来のへたくそなアナウンサーであった私にとってこれが、「唯一やった仕事だ」と信じているものなのです。

 〈38年には、NHKの重要な番組であるニュースを担当した〉

 (NHKの)会長と放送総局長から突然呼ばれて、「4月からニュースに力を貸してくれ」と。そのとき私からも、いくつかのお願いをしました。一つが、ニュース原稿を読むアナウンサーに「ぜひ女性を登用してほしい」ということです。今では信じられないでしょうが、当時ニュースを読むのは、ほとんどが男性アナウンサー。尊敬すべき女性アナが、一度もニュース原稿を読んだことがないというのです。

 私は「これからカラー放送になる。女性は流行やファッション感覚に優れているし、視聴者も女性が多い。時代も変わってきている。女性が読んだ方がいいニュースもあるでしょう」と力説したのですが、幹部の答えは否定的でした。確かに親近感はあるかもしれないが、女性アナウンサーが読むニュースを「日本の男性が信用するとは思えない」というのです。がっかりしましたね。

 〈現在は当たり前となった、記者やアナウンサーが事故などの現場からマイクを持ってリポートする“顔出し”スタイルも提案する〉

 さっそく記者たちが10人くらい押しかけてきて猛抗議です。「俺たちの仕事は記事を書くことなんだ。女性(アナウンサー登用)の話も聞いた。お前はニュース番組を乗っ取るつもりか」と、すごいけんまくでした。私としては、現場に一番近いのは「記者」なのだから、中継車もうんと小型化させ、直接、記者がリポートするのがいいという理屈でしたが…。

 同じニュースを時間がたってから再び読むときに、原稿の時間が更新されないことがあるのもおかしいと感じていましたので、私は勝手に変えて読む。するとまた抗議です(苦笑)。(聞き手 喜多由浩)

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