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【アート 美】「イケムラレイコ 土と星」展 曖昧なるものの「強さ」

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「うさぎ観音II」2013~14年 ケルン市立東洋美術館
「うさぎ観音II」2013~14年 ケルン市立東洋美術館

 人や自然を高度にコントロールしようとする社会のひずみが顕在化する中、ドイツ在住の美術家、イケムラレイコは何ものにも規定されない、曖昧なるものの可能性を表現してきた。40年以上にわたる創作活動を見せる過去最大の個展「土と星」が、東京・六本木の国立新美術館で開催中だ。作品や展示に託した思いを聞いた。(黒沢綾子)

 ◆異邦人の感覚

 初期の素描から絵画、版画、彫塑(ちょうそ)、写真、映像、詩まで約210点が16の空間に配置されている。空間は互いに関連し合い、自由に往来しながら鑑賞できる。「回顧展ではなく、あくまで現代への発信であり、未来志向の展示です」

 1972年にフランコ体制末期のスペインに渡り、80年代初頭にスイスで本格的にアーティスト活動を始めた。その後ドイツに移り、東西冷戦終結後の91年からはベルリンとケルンが拠点。現代史における激動の地に身を置くことになったのは「偶然」と言うが、堅牢(けんろう)な欧州文化の上に、美術家として根を張ることは容易ではなかっただろう。

 「やはり異邦人(ストレンジャー)なんです。でもそれが不利だとは思わない。ものの見方に差異やズレがあるから繊細になれる。感覚が研ぎ澄まされる。それに人間同士、理解し合えることも経験上、身にしみて知ってるから」

 生と死、有機と無機、善と悪…。こうした西洋の二元論的思考を超えたもの、特に循環する生命や多様性、直線的ではない時間感覚などを作品を通して提示してきた。人や動物、木々といったイメージと形態は、絵や彫塑の中で輪郭が溶けて融合してゆく。「曖昧なものが好きなんです」

 90年代の代表的モチーフ「少女」も、大人になる前の曖昧な存在だ。「男性目線で理想化された少女とは違い、成熟への期待と不安を胸に、特別な境界を超え浮遊するような存在」ととらえる。絵の中で茫洋(ぼうよう)と立ちすくむ少女。眠っているのか打ちひしがれているのかわからない、塑像の少女…。自身の幼少期の孤独を反映する、自画像でもあるという。

 ◆循環する生命

 2011年に祖国を襲った東日本大震災は、作品世界を変える大きな契機となった。模索の中で生まれた「うさぎ観音」は、「あらゆる生命が混じり合った造形で、救いの女神のようなもの」。今回、3メートル超の陶とブロンズの2点が屋内外に置かれている。スカートの中の空洞は「無」ではなく、母の胎内のようにすべてを包み込む。

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