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【話の肖像画】指揮者・大友直人(60)(8)ネット上で中傷された

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(三尾郁恵撮影)
(三尾郁恵撮影)

 〈東京芸術劇場(東京都豊島区)での演奏会で、後に他人が作品を書いていたことが明らかになる佐村河内守(さむらごうち・まもる)の「交響曲第1番」(HIROSHIMA)を取り上げ、聴衆から大きな反響を得た。演奏終了後、佐村河内と初めて対面する〉

 カーテンコールが初対面でした。サングラスをかけたままで、どことなくうさん臭さを感じました。その後、必要があって何度か会うことがありましたが、耳は聞こえているんじゃないかとうすうす感じていました。ただ私にとって、それはどうでもいいことでした。

 カーテンコールの後、演奏を聴いていた日本コロムビアのディレクターが楽屋を訪れ、「きょうのメンバーで録音しませんか」と依頼してきました。録音は演奏会から1年後。その2年後に佐村河内さんを取り上げたNHKのドキュメンタリー番組が放送されました。

 〈番組をきっかけに、ポピュラー音楽並みにCDが売れ始める〉

 それからです、水面下で「佐村河内さんの耳は聞こえているらしい」という話が出始めたのは。彼の作品にかかわった知り合いの音楽家から「それが事実ならどうしましょう」と相談されたので、私は「耳の聞こえなかった人が聞こえるようになったのなら、喜んであげればいいじゃないですか」と答えました。

 次いで、作品を書いたのは本人ではなく、ゴーストライターだったという話が浮上してきました。

 ちょうど沖縄にいたときに、「週刊文春」の記者から電話が入り、「来週こういう記事を出すのでコメントをいただきたい」と言われました。私が「おやめになったほうがいいのでは。そんな記事を出して誰が幸せになるんですか」と答えると、「ゴーストライターに書かせたのは問題でしょう」と言う。「そんな作品は山のようにあります。オペラなんか1人では書けませんから。こんなことを大事件だと騒いでいたら、他の分野も含め収拾がつかなくなりますよ」と言うと、記者は「分かりました。大友さんのコメントは出しません」と言って電話を切りました。

 この「事件」に巻き込まれ、私自身はあたふたすることはありませんでしたが、ネット上で中傷され、クレームを恐れた放送局やコンサートの企画が私を起用しづらくなるなど、確かにダメージはありました。

 〈ゴーストライターとなった新垣(にいがき)隆は大友さんの母校、桐朋学園大学出身。桐朋学園大学学長を務めた作曲家の三善(みよし)晃の弟子でもあった〉

 新垣さんはとても優秀な作曲家だと思います。佐村河内さんから「こんなふうに」と伝えられたイメージを、その通りに音にしてオーケストレーション(管弦楽団で表現できるようにする)してしまう。どんな注文にでも自在に対応できる技術を持っている。「交響曲第1番」は不幸な作品になってしまいましたが、新垣さんにとって傑作の一つであることは間違いありません。(聞き手 桑原聡)

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