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芥川賞に決まって 町屋良平さん、上田岳弘さん

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 「一人でも読者がいれば作家は書き続けることができる」と言っていたのは、カート・ヴォネガットだったか。20そこそこの若者だった僕は、切実に読者を、それも誠実な読者を必要としていたのだと思う。出来上がった作品は、原稿用紙にして420枚程度の長編だった。サナトリウムを舞台にした感傷的な物語で、死にいく少女がいて、それを見守る主人公がいる。意味深(いみしん)な会話が行われ、主人公の悩みと作品世界の動きがリンクする。もちろん決してうまくない作品だったけど、最後の最後に感傷をかなぐり捨てた幕切れが、今も密(ひそ)かに気に入っている。その後に純文学雑誌の新人賞のことを知り、応募用に幾つかの小説を書いたが、それらよりもよほど今の作風に近いと思う。

 僕は、書きあがった小説のワードファイルをiMac1998で先輩に送った。すぐにそれを読んでくれた先輩から電話がかかってきた。「文章やなにかは、めためただけど」、と前置きをした上で、「う、う、上田くん。これはすごいよ。既に、すごいよ。うまいとか、下手とかそういうのは問題じゃないからね」と、先輩は言ってくれた。一人目の読者のその言葉を僕は何度となく思い返し、支えにしてやってきた。

【プロフィル】上田岳弘

 うえだ・たかひろ 昭和54年、兵庫県生まれ。早稲田大卒業後にITベンチャーの起業に参画し現在は同社役員。平成25年、新潮新人賞受賞作「太陽」でデビュー。

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