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【新・仕事の周辺】真藤順丈(作家) わが子も魅了できる無頼・野性派に

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 見かけ倒しのインドア派だが、作家の創意のなんたるかを発揮せねばなるまい。インドア派にはインドア派なりの意地があるのだ。

 ところがユズパパは仕込み十分のカレーや肉料理、手挽(び)きの珈琲(コーヒー)などをつぎつぎと出してきて、それがことごとく絶品で、私を骨抜きにしようとしてくる。うちの子たちは「レオパパ~」とよそ様のテントに入り浸っている。うぬぬ、もてなしているうちにアドバンテージを取ろうという算段か。

 ユズパパはふらりと消えたかと思えば、子供たちを洞窟(どうくつ)探検に連れていったり、近くの川で釣ってきた山魚(やまめ)を魚篭(びく)に入れて戻ってきたりする。その塩焼きをいただいて娘に食べさせようとしたところ「あ、そのまま囓(かじ)るんじゃなくてプッと塩を吹くのよ」と横から指南してくれて私は形無(かたな)し。大自然のなかで父と子が時間を過ごすというのがどういうことかを知りつくしている。かたや私は文明の利器頼み、というかドンキ頼みで、持参していた大きなシャボン玉を作れる棒や、いっぺんにいくつも水風船を作れる玩具の秘密兵器をそそくさと荷物の裏に隠した。

 私は敗北を喫した。野性派にはなれなかった。その苦みを噛(か)みしめる私に、夜の焚(た)き火前でユズパパは言った。「『宝島』読みましたよ」と。なんとこの男は文武両道でもあったのか。「良い小説だった。直木賞とかイケるんじゃないですか」

 うちの子はというと「ユズちゃんちのテントで寝たい」と言いだす始末。だけどその頃には、私だってユズパパのテントで寝たかった。彼の言葉どおりの幸運に与(あずか)ったいまは、受賞作家として見かけ倒し、評判崩れということにならぬよう、わが子をも魅了できる無頼・野性派の道を突き進んでいく所存です。

                   

【プロフィル】真藤順丈

 しんどう・じゅんじょう 昭和52年、東京都生まれ。平成20年『地図男』で第3回ダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞しデビュー。1月、戦後復興期の沖縄を生きる若者たちを描いた『宝島』で第160回直木賞を受賞した。ほかの著書に『畦と銃』『墓頭』『夜の淵をひと廻り』など。

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