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【書評】『この先をどう生きるか 暴走老人から幸福老人へ』藤原智美著

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 ■「人生の初期化」という覚悟

 著者が約10年前に出版し、流行語にもなった『暴走老人!』。「不可解な行動で周囲と摩擦を起こす」新老人(著者命名)に己の未来を見て、不安に思ったのが執筆の動機だった。作家的想像力を駆使して彼らに寄り添い、「人間の内面を支える基盤」が想像以上の速さで変化する時代を無意識レベルで敏感に感じる新老人こそがいらだち、暴走するのではと考察した。

 その著者が来年65歳を迎えるにあたり、かような時代にどう生きたら幸福になれるかの答えを求めて執筆したのが本書だ。

 言葉で生きる作家は、人々を惑わす「人生100年」のまやかしをまずは喝破する。「リアルな日常の中から、少しでも楽しい暮らしを作り上げていく」には、第一にバーチャルなネットから距離を置く。会社では必須だった「上下関係の話法・目的の価値化」を、「対等な関係の話法・行為の価値化(行為そのものを楽しむ)」へと変える。

 習性を変えるのは容易ではない。「人生の初期化」「リボーン(生まれ変わる)」までもの覚悟がいる。初期化するには徹底的に過去の嫌な自分と向き合う。着飾った自分史ではない。幸福のふりをするSNS投稿でもない。暴言を吐き、怒った場面を詳細に思い出して書く。と、自尊心と虚栄心が表裏一体であることに気づき、「虚栄心を抜く」ことができる。もっとも虚栄心を傷つけるのが避けようもない老化だが、自らを客観視して笑い飛ばすユーモア精神を養う。

 最後に強調するのは、暮らしを「価値」にすること。永平寺で修行の真似(まね)事をしたとき、「食」が日常を支えることと知った。買い物をし、料理をし、食し、片付ける。一連の行為にこそ最大の楽しみがあり、これを他者に任せない。これらの思考によって、老年への戸惑いと不安をなんとか克服したと著者はいう。

 巷(ちまた)では“働き方改革”が声高に叫ばれている。単に労働時間の短縮でなく、仕事最優先の日本的働き方から脱却し、「暮らしを価値にする」。それが真の改革であると、本書を読んで再認識した。(文芸春秋・1200円+税)

 評・井口優子(ジャーナリスト)

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