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心の傷、銅版に刻んで 村上早、初の大規模個展

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「私の肉体がほろんでも銅版は残る。作品より版の方が好き」と語る村上早さん「かくす」銅版 平成28年
「私の肉体がほろんでも銅版は残る。作品より版の方が好き」と語る村上早さん「かくす」銅版 平成28年

 新人画家の登竜門「FACE2015」優秀賞や山本鼎(かなえ)版画大賞の受賞などでこの数年、一気に注目を浴びている銅版画家、村上早(さき)(26)。初の大規模個展「gone girl(ゴーン ガール)」が長野県上田市のサントミューゼ上田市立美術館で開かれており、ナイーブさと暴力性を秘めた独特の世界を展開している。

 銅版画といえば緻密な小品が多いイメージだが、村上作品はとにかく大きく、最大で縦2メートル、横2・5メートルにもなる。リフトグランドエッチングという描線をそのまま腐食させる技法を多用しており、子供が描いたような太くプリミティブな線、大胆な構図に惹(ひ)かれる。と同時に、その表現世界はどこかはかなく、危なげに見えて仕方がない。

 村上は言う。「私にとって銅の版は〈人の心〉で、付ける傷は〈心的外傷〉、傷に詰めるインクは〈血〉、刷り取る紙は〈包帯やガーゼ〉なのです」。版に傷をつける制作に心の傷を重ね、痛みやトラウマを主たるモチーフとしてきた。

 群馬県高崎市生まれ。実家は獣医師で、幼少期から動物の生死を間近で見てきた。自身も4歳の時に生死を分ける心臓手術を受け、断片的な恐怖の記憶に長年悩まされてきたという。武蔵野美大で銅版画と出合い、「これで自分の内にたまったものを表現できると思った。すがるように制作してきた」と振り返る。

 巨大な怪鳥の足が、少女の手から犬を奪ってゆく「さらう」(平成29年)。大切なものを無慈悲にさらう大きな力。怪物の毒牙にかかるのは人間も同じで、「ほろび」(同年)では人間もろともこの世の終焉(しゅうえん)を描く。「人も動物も同じく悲劇的な目にあってほしい」と村上。人と動物、自然は同等で、生と死も対極ではなくつながっている。

 初めて色版を使った作品「かくす」(28年)。天使のような少女は、鳥から羽根を奪って逃げ去るところだ。何もかも、ブルーシートの下に隠そうとして。事故現場など、負の出来事を連想させるブルーシートから出発した作品という。

 人の表情は基本、描かない。「何も考えずに虫をつぶしたりする、悪意のない暴力的な子供の感覚が好き」で、喜怒哀楽を排したと村上。自身も幼い頃、虫を花火で焼き殺したことがある。その罪に気付いたとき、心に傷が付いた。

 その傷が一生消えないように、銅版に一度付けた線は、どんなに平らに削っても痕が残る。それがまた、作品の魅力になっている。

 「人は皆、心に傷を負っている。だから(作品を)分かってもらえるのかな」

 同館学芸員の中村美子さんは、村上作品への反応は大きく二分されると話す。「痛いと感じる人と、温かさや共感を覚える人。どちらにせよ、人の足を止めさせる作品。力のある作家だと思います」

 3月17日まで、火曜休。一般800円。問い合わせは0268・27・2300。(黒沢綾子)

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