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【本ナビ+1】「壁」を越えさせた言葉の力 詩人・和合亮一

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インタビューに答える詩人の和合亮一氏=15日午後、東京都千代田区(萩原悠久人撮影)
インタビューに答える詩人の和合亮一氏=15日午後、東京都千代田区(萩原悠久人撮影)

 ■『あふれでたのは やさしさだった 奈良少年刑務所 絵本と詩の教室』寮美千子著(西日本出版社・1000円+税)

 奈良少年刑務所は、明治時代から続く美しい煉瓦(れんが)の建築である。耐震性の問題などから2年前に閉鎖された。

 ここにかつて17歳から25歳までの若者たちが収監されていた。この所内で詩の書き方を教えてきた著者がその10年間の日々を振り返った。

 きっかけは「短くて美しい言葉を、繰り返し繰り返し、寄せては返す波のように彼らに体験してほしかった」という指導教官の願いからであった。詩句の温かみに触れることで「愛された経験」を取り戻してほしい、と。大学生などに実作を教えた経験はあるものの、受刑者と接するのは初めてである著者はいささかの戸惑いを覚えながらも実践を進めていく。

 幼少期に虐待や育児放棄を受けたり、母と死別していたりという境遇の若者が多い。彼らだからこそ書き、分かち合える何かがあると分かる。読んでくれる相手があって初めて成り立つ。そこに飾りも駆け引きもいらない。「詩によって自分を表現する。それをだれかに受けとめてもらう。たったそれだけのことで、人はこんなにも変わる」。言葉の力が若者たちに壁を越えさせていく。塀の中の生きた教室の風景がある。

 「くも/空が青いから白をえらんだのです」。父から暴力を受けていた母が、幼い頃に世を去った。かつて母は辛(つら)くなったら空を見るようにと教えてくれた。その思いが込められている短いフレーズ。

 児童施設の辛い過去が描かれている詩。「そんなとき 地図を見れば 少し 心が和んだ/数十キロ離れていても 地図を見れば 母と繋(つな)がっている気になれた」。刑に服し親を思う心がある。読み終えると「愛された経験」が浮かぶ。静かに涙が出るだろう。

                  

 ■『これは水です』デヴィッド・フォスター・ウォレス著、阿部重夫訳(田畑書店・1200円+税)

 天才と呼ばれた米作家の母校におけるスピーチが収められている。「なにを考えるべきかを/選ぶことにある」「自身を啓蒙するのは、一生をかけた大仕事であり、それは始まったばかりだ」…。力ある言葉を残し若くして鬱病に悩んで縊死(いし)した。そう思うと声が切なく響いてくる。一編の長編詩として読んだ。

                  

【プロフィル】和合亮一(わごう・りょういち) 昭和43年、福島県生まれ。『AFTER』で中原中也賞。震災詩集『詩の礫』の仏語版で、仏「ニュンク・レビュー・ポエトリー賞」(外国語部門)を受賞。

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