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【欲望の美術史】宮下規久朗 バスキアとカラヴァッジョ

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バスキア展で展示されている「消火栓の少年と犬」 =パリ、ルイ・ヴィトン財団美術館
バスキア展で展示されている「消火栓の少年と犬」 =パリ、ルイ・ヴィトン財団美術館

 ■芸術に影響与えた無頼画家

 先日パリに行ってきた。話題となっているルイ・ヴィトン財団美術館での大規模なバスキア展を見るためである。

 ジャン=ミシェル・バスキアは、1980年代のニューヨークで活躍し、国際的な名声を得ながら麻薬の過剰摂取によりわずか27歳で没した画家。その生涯はすぐに映画化され、最近も日本人社長がその作品を123億円という高額で落札したことで話題となった。その70年前に28歳で夭折(ようせつ)したオーストリアの画家エゴン・シーレの展覧会も同じ会場で開催していた。

 バスキアは、街のグラフィティ(落書き)から出発しただけあって、激しいタッチの絵や文字が混在し、殴り書きのような乱雑な作風だが、見事な色彩効果や多様なメッセージ性を備え、一筋縄ではいかない複雑な作品である。ピカソに始まる20世紀のモダニズム美術の流れを踏まえているだけでなく、ジャズやヒップホップ、アフリカ民俗や人種問題など、黒人画家ならではの主題を濃厚にたたえている。そのため、没後ますます名声が上昇し、今や20世紀美術の巨匠として確固たる地位を占めるにいたった。

 今回の展覧会は世界中から集めた120点の大作群によって、バスキアの全貌をテーマごとに分類して展示しており、「黒いピカソ」とよばれるこの画家の力強い芸術世界を十分に堪能できた。

 ピカソといえば、パリではオルセー美術館で「ピカソ 青とバラ色の時代展」、ポンピドーセンター国立近代美術館で「キュビスム展」をやっており、いずれも世界中から重要な作品を多数集めた大規模な展覧会であった。会場の前には長蛇の列ができており、みな寒空の下で文句も言わずに並んでいたのが印象的だった。

 さらに、カラヴァッジョ展をジャックマール・アンドレ美術館でやっていた。ほとんど宣伝していないにもかかわらず、日本にも来たことのない名作「リュート弾き」や年末に大阪に来る予定の「ホロフェルネスの首を斬るユディト」など、真筆10点を中心としたもので、小規模ながら、カラヴァッジョを専門とする私から見てもきわめて質の高い充実した展覧会であった。

 バスキアとカラヴァッジョ。今回は思いがけず美術の都パリでこの二人を見比べる機会を得た。いずれも若くして名声を確立しながら、社会に反発するかのように破滅的な生活を送って夭折した無頼の画家である。時代も様式もまったくちがうが、いずれも同時代から周囲に多大な影響を与え、いまなお見る者を激しく揺さぶる力をもっている。

 日本でも今秋、初めてのバスキア展、そしてカラヴァッジョは3度目となる展覧会が開催される予定であり、楽しみである。(美術史家、神戸大大学院 人文学研究科教授)

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