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【明治の50冊】(42)田山花袋『蒲団』 私小説へ連なる「大胆な告白」

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 ヒロインのモデルにされた岡田を巻き込んで内容の虚実をめぐる議論がにぎわう一方、目新しい作風は大きなうねりを生む。実際、小説家で評論家の正宗白鳥は大正4年の「中央公論」誌上に〈知らず知らずみんながかぶれて、多くの作家がわれがちに自己のもっている「蒲団」式の小説を書き出した〉と記している。

 「自分の体験を描いていくことに文学の価値はある-。そういう考えは作家の心境を淡々とつづる志賀直哉らの『心境小説』などにも受け継がれた」と生方教授。この作品が体験の描写や心境の吐露を重視する日本特有の私小説の始まりとも言われるゆえんだ。

 中年男の滑稽さが伝わる名場面に彩られた一作は、長く読み継がれていく。昭和5年刊の岩波文庫版は累計94刷。作家の高橋源一郎さんは長編小説『日本文学盛衰史』で、アダルトビデオ監督に転身した花袋を描いた。中島京子さんのデビュー小説『FUTON』のように、時雄の妻の視点を生かした“本歌取り”も出ている。

 今、『蒲団』はジェンダー(社会的性差)の観点からも読み返されていると生方教授は言う。

 「ヒロインの芳子は蒲団にも痕跡を残すほどの強い身体性を持った魅惑的な女性。社会で良いとされる振る舞いはしないし、隙あらば新しい居場所を見つけようとする。そのエネルギーと痛々しさは、現代の人々でも共感できる魅力を放っている」(海老沢類)

                   

 次回は28日、『三四郎』(夏目漱石)です。

                   

【プロフィル】田山花袋(たやま・かたい) 明治4年、現在の群馬県館林市に生まれる。尾崎紅葉、江見水蔭(えみ・すいいん)の指導を受け、小説や詩を執筆。次第に創作における客観的態度を重視するようになり、文芸雑誌「文章世界」を拠点に自然主義運動を推進。小説『蒲団』で、島崎藤村と並び日本の自然主義文学の代表的な作家となる。代表作に『生』『田舎教師』などがある。昭和5年、喉頭(こうとう)がんで死去。

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