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【明治の50冊】(42)田山花袋『蒲団』 私小説へ連なる「大胆な告白」

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「新小説」に掲載された『蒲団』(田山花袋記念文学館提供)
「新小説」に掲載された『蒲団』(田山花袋記念文学館提供)

 家庭もあり分別もあるはずの中年作家が、若い女弟子に恋をして苦しみもだえる-。田山花袋が実体験をもとに紡いだ『蒲団(ふとん)』は、明治40(1907)年に文芸雑誌「新小説」誌上で発表された。有名作家の手による赤裸々なざんげ録として文壇を騒然とさせた中編小説は、「個」を探究する日本の自然主義文学を代表する作品となった。

 地理書を編集する傍ら文学を手がける主人公の作家・竹中時雄と、押しかけ同然で上京してきて彼の内弟子となった裕福な女学生・横山芳子。新婚当時の熱もさめ、単調な生活にうんざりしていた時雄は美貌の芳子に恋をするが、彼女に大学生の恋人ができてから苦悩の日々が始まる。嫉妬に胸を焦がし泥酔しては妻や子に当たる。2人の関係の深さを知ろうと手紙まで盗み読む始末。分別ある師としての立場を意識はしても肉欲は消せない。醜悪な内面を暴いていく物語は、芳子のにおいが染みた寝具に顔をうずめる時雄が涙を流す有名なシーンで幕を閉じる。

 発表当時の花袋は、主人公とほぼ同年の35歳。前年には、出自の秘密を抱えた青年の苦悩をえぐり、自然主義文学の先駆となる島崎藤村の『破戒』が刊行されていた。その成功にも触発され、〈打ち明けては自己の精神も破壊されるかと思われるようなもの〉(『東京の三十年』)を出す覚悟で書き上げたのが、自身と弟子である作家・岡田美知代の関係を下敷きにした『蒲団』だった。

 大胆な告白は文壇に衝撃を与えた。発表直後から多くの雑誌が論評を載せ、評論家の島村抱月は「早稲田文学」誌上で〈自意識的な現代性格の見本を、正視するに堪えぬまで赤裸にして公衆に示した。これがこの作の生命でまた価値である〉と絶賛した。

 「写実に価値を見いだす自然主義文学が勢いを増す時期。『率直に告白する』姿勢そのものに価値が認められた」と話すのは明治大学文学部の生方(うぶかた)智子教授(日本近代文学)。学生数の増加に伴って、当時の新聞連載で人気を博していたさまざまな青年の恋物語との違いも指摘する。「中年作家の主人公は、客観的態度で女性の容姿や振る舞いを観察する。女性との直接的な関係性にではなく、離れた所で見る自己の苦悶(くもん)の中に『性』を見いだす。そこはとても現代的です」

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