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【歴史の交差点】トランプ氏の教訓 武蔵野大特任教授・山内昌之

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シリア北部マンビジュの前線近くに派遣された米軍の装甲車=2018年4月(AP)
シリア北部マンビジュの前線近くに派遣された米軍の装甲車=2018年4月(AP)

 旧臘(きゅうろう)に起きた自衛隊機へのレーダー照射問題や、徴用工判決による日本企業の資産差し押さえをめぐり、日韓関係はこれまでとは位相の違う危機に陥っている。今のところ米国には、同盟国間の問題に介入して調整を図る意志がなさそうだ。こうした姿勢はトランプ大統領がほぼ同時期に発表したシリアからの米軍撤退計画や、年が明けてから暴露されたNATO脱退の構想とも共通した面がある。

 米国の動きに一番困惑しているのは、日本やEUであろう。両者とも歴史と政治の両面でそれぞれ厄介な韓国やロシアとの関係がこじれそうになると、暗黙のうちに米国が乗り出して問題をそれとなく棚上げする労をとってくれたからだ。米国はさながら名画「真昼の決闘」のゲーリー・クーパーであり、世界はそれを当然と考えてきた(アミール・ターヘリー『アッシャルクル・アウサト』1月11日)。

 しかし、国や場所によっては米軍の駐屯に感謝もせず、負担を持ちたがらないとあれば、トランプ氏のような動きが生じるのも予想できたことである。

 とはいえ、いざトランプ氏が米国民ファーストの「一国平和主義」を掲げると、モンロー主義(19世紀米国の孤立主義)への回帰として批判する人々は海外で増える一方なのだ。ウクライナ・シリア情勢でロシアの攻勢を受けるEUやアラブの国々は、トランプ氏の姿勢に不平を漏らし、韓国の非理性的対応を直視するよりも日韓友好絶対モードの超現実的世界に浸る一部日本人は、「米国が助けてくれない」とお門違いの反発をしているのではないか。

 しかし「真昼の決闘」のように、他国のために「銃を使うゲーリー・クーパー」は、正義や秩序の名分とはいえ、犠牲を出す米国人にとって心地よいものではない。人権や民主化を語りながらイランの反体制デモやシリアのアサド大統領による毒ガス使用に沈黙したオバマ前大統領や、時代をさかのぼれば東中欧をスターリンの毒牙に委ねたフランクリン・ルーズベルトにしても、現地の市民の抑圧や人権侵害を無視した点では、トランプ氏と同じかそれ以上の偽善にあふれている。

 他方、オバマ氏とトランプ氏がシリアで地上軍部隊として頼りにしたクルド人をプーチン大統領との取引で見捨てるとすれば、その時こそトランプ氏は強く批判されるべきだ。トランプ氏は複雑化・不安定化した世界を導く戦略がなく、その動揺をむしろ促進することになるからだ。派手なジェスチャーでは戦略の代用にはならない。

 トランプ氏はクーパーになれそうにない。クーパーにはたとえ自分に冷たくても市民と社会正義のために立ち上がり、悪漢を懲らしめるという具体的な選択肢があった。勧善懲悪の結果、クーパーは新妻とともに新天地に旅立つ。日本や世界が米国に期待するクーパーの役割を果たさないといって、トランプ氏だけを批判するのは見当違いである。日本国民の利益と自衛隊員の安全を守るのはまず日本政府でなければならない。(やまうち まさゆき)

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