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【明治の50冊】(41)島崎藤村『破戒』 絡み合う自我の苦悩と社会

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 だが、部落差別という深刻な社会問題を扱う関係上、社会小説としての『破戒』には戦前から否定的評価が向けられてきた。特に、丑松が生徒たちに向かって「『許して下さい』を言いながら板敷の上へ跪(ひざまず)いた」とする終盤の告白場面は、社会の差別と偏見に対し立ち向かうのではなく屈服を選んだとして、厳しい批判を受けた。一方で、自我の葛藤に重点を置いた「告白小説」の名作と位置づける文学史家も多く、その評価は分裂している。

 伊藤准教授は、「『破戒』は自我の悩みと社会問題とが、ある場合には不可分であることを示した希有(けう)な作品」と指摘する。丑松が被差別部落出身であることを告白すべき問題だとして悩むこと自体が、社会にあるゆがみを示唆しているのだという。

 「告白が問題になるというのは、たんに自我の内側から生まれることでなく、社会の差別が生んでいるもの。結末近くで丑松が謝ったことの是非がしばしば問題になるが、そもそも謝る以前に、『隠す/隠さない』という告白の悩みが社会問題そのものだった」

 本来は社会問題なのに、自身でも気づかないうちに自我の問題にすり替わってしまう。現在の性的少数者(LGBT)差別を考える際にも、『破戒』が示した問題はいまだ古びていない。(磨井慎吾)

                   

 次回は21日、『蒲団』(田山花袋)です

                   

【プロフィル】島崎藤村(しまざき・とうそん) 明治5年、筑摩県馬籠村(現岐阜県中津川市)の旧家に生まれる。本名・春樹(はるき)。上京し明治学院で学び、「文学界」に参加して浪漫主義詩人として出発し『若菜集』などを発表。のち小説に転じ『破戒』『春』『新生』などで自然主義文学の代表的作家に。他に歴史長編『夜明け前』などがある。昭和18年、71歳で死去。

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