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【写】ささやきに魅せられ 太田順一写真集「ひがた記」

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太田順一写真集『ひがた記』から
太田順一写真集『ひがた記』から

 もうすぐ1月17日。阪神淡路大震災のことを振り返るたびに、思い出す写真がある。写真家の太田順一さん(68)が、被災直後に神戸市長田区で撮影した作品(写真集『無常の菅原商店街』に収録)だ。

 太田さんは拝むようにカメラを地面に向けて撮影していた。焼け焦げた瓦礫(がれき)が散らばる地面を。同じ時期に同じ場所を歩いた私は、その抑制的なイメージに驚き、納得した。あの日、じつは焼け跡を踏むのが怖かった。なにか大切なものを踏みにじるようで。その畏れを、私は仕事と割り切って封じた。太田さんはしっかりと受け止めていた。

 そんな太田さんの新作写真集『ひがた記』(海風社)にも、地面の写真がたくさん収められていた。凄惨(せいさん)なものではなく、小さな命の気配に満ちた干潟が。

 陽光が残り水に反射する。藻のあざやかな緑。岩にへばりつく貝たち。ぬかるみに鳥の足跡が点々。なにかが這(は)いずった痕…。大阪湾に2年あまり通って撮影された。飽かずに泥と砂の上を歩き続けた。

 「僕らは長い時の流れのなかにいるけど、今日明日のことから離れて、長いスパンのものを体験できるのって、なかなかできない。でもじつは、遠くへ出かけなくても見つけられる。歩き始めたら面白くなった」

 過ぎゆく時間の中で、うっかり見逃してしまいそうな大切なことを、そっと写し止める。気づきを与えてくれる。じつにさりげなく。本書にこんな言葉が付されている。

 〈声高なものには、たとえそれが真実を語っているとしても、決して与(くみ)しまいと私は思い定めている〉

 久しぶりに電話で話すと「僕は虚無感や諦念をポジティブにとらえてる。いろいろあっても『これでええねん』っていう感じ」。静かなささやきにこそ耳を傾けたくなる。(篠原知存)

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