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【書評】『東京輪舞(ロンド)』月村了衛著 角栄の昭和通じ平成を総括

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 昭和51年夏。ロッキード事件で逮捕された元首相の田中角栄が、勾留先の東京拘置所で舎房から取調室へ向かうある日、足を止めた。照りつける真夏の強い日差し。数十センチの背丈にまで伸びて生い茂る雑草。そこで漏らした一言が「ここで牛が飼えるなー」。

 角栄の名に触れると、評者は人間味あふれるこの挿話を思い出す。社会部で検察担当だった20年ほど前、ロッキード事件の捜査から公判まで携わり、後に検事総長も務めたある検事から聞いた挿話だ。

 その角栄に始まり、角栄で終わる-本作はそんな小説である。49年初夏、角栄邸を警備中に不審者と格闘、大けがを負う警視庁巡査で主人公の砂田周作を角栄自ら病院に見舞う。「誇らしかった」と思う20代半ばの砂田は翌年、公安部外事1課に配属される。

 そして51年。ロッキード事件での角栄逮捕から1週間。砂田が所属する外事1課「馬越班」に対し、日本で潜伏中の元ロッキード社員、ヘンリー・ワイズを確保せよという「CIA(米中央情報局)の下請け仕事」が下命される。砂田らはワイズの潜伏先を突き止めるが、代わりにいたのは日本の大学に留学中だという娘のアンナ。さらに、ソ連のKGB(国家保安委員会)も触手を伸ばしてくる。

 ロッキード、東芝COCOM違反、ソ連崩壊、地下鉄サリン…。昭和から平成にかけて起きた実際の事件や実在の人物も登場し、物語は砂田が警視庁を退職して70の坂を越すまでの半世紀近くが描かれる。警察庁長官銃撃事件ではロシアに加え、某国の機関員も暗躍。砂田らは「戦後最大の外事事案」として捜査を進めていく。一端が垣間見える真相の行方には、外事特有の闇すら感じさせられる。

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