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【書評】『自分流 駅伝・帝京大の育成力』中野孝行著 敗北を経験した選手を全国から

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『自分流 駅伝・帝京大の育成力』中野孝行著
『自分流 駅伝・帝京大の育成力』中野孝行著

 よくある大学駅伝監督の名刺代わりの本かと思ったが、それらとは完全に一線を画す内容とクオリティーだ。

 著者は、国士舘大学で箱根駅伝を4回走り、実業団選手として活躍した後、三田工業とNECでコーチを務めた。しかし、会社の倒産で失業したり、陸上部の廃部で障がい者雇用促進の特例子会社へ転出したりした。平成17年に42歳で帝京大学駅伝競走部の監督に就任すると、そうした苦労と経験を活(い)かし、高校時代には実績のない選手たちをめきめきと育て、箱根駅伝の常連校となった。

 本書はクールな文章で綴(つづ)られているが、選手たちに対する愛情が随所に滲(にじ)み出ている。夏の万座合宿は、著者自らが運転するバスで現地に向かうという。きっと選手たちは、著者の思いを眩(まぶ)しいほどに感じ取っているはずだ。

 合宿メンバーにあと一歩で選ばれなかった数人の選手たちは、毎年、現地の温泉旅館でアルバイトとして、約1カ月間、布団の上げ下ろしや食事の配膳(はいぜん)をしながら、選抜メンバーとは別メニューで練習するそうである。著者はアルバイトの選手たちのために、朝4時に起き、雨の中、20キロメートル走を車で伴走したりもする。アルバイト期間を終え、人間的にも成長した選手たちの様子を綴る文章には、彼らを誇りに思う気持ちがあふれていて、心打たれる。

 私も大学時代、箱根駅伝を2回走ったが、選手と監督のこれほどの努力には、ただただ脱帽するしかない。

 全国を行脚するスカウト活動では、敗北を経験し、勝利に飢えている選手を探すという。「(ふと気づくと)自分と同じような匂いのする選手を探していて、過去の自分を追いかけるのと同時に、私は彼らの中に未来の自分を見ようとしているのかもしれない」と述べ、内省的でロマンチストの一面も覗(のぞ)かせる。

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