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【理研が語る】社会を科学的に見てみる 楳本大悟

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スイッチの形
スイッチの形

 子供のころ、父がよく海外出張をしていた影響で空の旅がうらやましく、いつの頃からかパイロットになることしか考えられなくなっていた。

 これは一種の「逃げ」でもあった。社会というのはなんだか混沌としていて、その中でうまく立ち回るのは難しい。人間社会の汚い面を見て生きるくらいなら、美しい空の中に逃げたいと単純に考えていた。「やりたいことはなんですか」と聞かれて即答できることは子供の私にとって一種の誇りではあったが、人生とはそううまくいくものではない。諸般の事情から、私は最初の夢を諦めることになった。

 紆余曲折を経て、今は社会シミュレーションの研究を生業としている。健やかに生きるには人間と社会を理解することから逃れられないと気づいたからだ。やがて必要になるだろうと思って、航空事故調査について本を読み漁っていたことが今の仕事のモチベーションとなっている。

 飛行機事故が起きると、昔はよく「パイロットミス」「管制ミス」といったバッシング報道につながった。確かに、起きたことだけを見れば人為的なミスに見えるかも知れないが、「ミスを誘発するようなシステムのせい」というもっと視野の広い考え方もある。

 仮に、そっくりなボタンが横に並んでいれば、遅かれ早かれ、ある一定の確率で誰かが取り違えて事故が起きる。間違えた人をいくら責めても安全性は高まらない。代わりに人類はスイッチの形を全く変えてしまうアイデアを思いつき、実際に事故が減った。

 事故の「真の原因」は意外とつまらないもので、どこかに悪者がいるわけではない。この話は社会にもあてはまる。それぞれが悪意なく必要なことを一生懸命やっていたら思わぬ失敗が発生し、自ずと不都合が生じることで社会的な大問題に発展する。私がいま研究している交通渋滞はその一例である。

 個人ではなくシステムに問題を還元する立場で「これはどういうものか」「何が起きたのか・起きうるのか」を調べ、問い続ければ、不都合を減らすための具体策が得られると私は信じている。社会はなおも混沌としているが、これを科学的に分析するための礎となる知見を積み上げていきたい。

     

 楳本大悟(うめもと・だいご) 理研・計算科学研究センター特別研究員。昭和59年、東京都生まれ。平成29年、東京大学理学系研究科物理学専攻で博士(理学)を取得し、同年より現職。現在は都市スケールの交通流を主な研究対象とし、スーパーコンピューターを用いた計算社会科学の研究を行っている。趣味は読書、機械いじり、裁縫など。

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