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【職人のこころ】大黒様のチカラ

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井戸理恵子さん
井戸理恵子さん

 先日、宮城県石巻の金華山黄金山神社にて<明けて亥年になる年の霜月、甲子の日にはじまり6年間毎年続けて斎行される>という「大黒天祭」に参加してきた。11月27日から甲子の日である28日にかけての深夜のお祭り。暦通りでいけば6年ぶりに大黒様がお出ましになられるということで宮城県内はもとより他県からの人で大にぎわいだった。

 七福神で有名な大黒様だが、日本では古くから民間信仰において「恵比寿/大黒」とセットで海の神・山の神、あるいは台所の神・食べ物の神として祀られてきた。

 2俵の米俵に乗り、打出の小づちと肩にも米を入れた袋をもった姿で現れる。大黒様のシルエットは民間信仰でよく祀られる男根そのものであり、子孫繁栄への願いをも示している。日本神話では大国主尊としての大国様と同一視される。どちらも根の国底の国の担当であの世の中からじっとこちらの世界を伺っている、というわけだ。

 したがって、黒い顔で表されることも多い。大黒様のお使いは子(根)にあやかってネズミ。米を餌にネズミを操るというわけだ。

 しかし、この喪黒福造にも似た大黒様には裏の顔がある。打出の小づちは剣に変わり、袋の中身は七宝が入っている。いつしかインドのマハカーラという神と習合し、密教の神としての進化を遂げた。マハカーラは偉大なる黒い神。世界を破壊するという暗黒神でもある。怒らせたら怖いのだ。

 だから、祀らなければならない。大地の下にあるもの。それはわれわれの祖先である。祖先は祀れば神になり、祀らなければ鬼になる。祀れば宝物をくれるが、祀らなければその剣で殺されてしまうのだ。

 恐ろしい神ほど味方につけておくべきである。恐らく昔の人はそう考えた。大地そのものを先人は擬人化して捉える。大黒様は昔の人たちの知恵を結集させ、その知恵をも操る。時間や夢を支配する。しかし、邪とか悪の類ではない。己の中にある弱いものを屈服させる、のだ。悪を懲らしめ、弱きものを助ける。どことなく不動明王にも似ている。

 かつて、災害や飢饉(ききん)、疫病で日本がどうしようもない状態になった時に現れたとされる日本独自の神がいる。過去、現在、未来にわたる3世界の仏の化身として登場した蔵王権現だ。インドのマハカーラはまさにこの蔵王権現に近い。片足を上げた姿など、「ダンシングシヴァ」によく似ている。マハカーラも実はシヴァ神の別名。

 となれば、蔵王権現のような大黒天がお出ましになることでこの不透明な世の中がよい世界に生まれ変わるかもしれない。

 そんな夢みたいなことは起こらないと思うがこれからの6年間、日本各地で開扉される大黒様の動向にしばし、気をつけてみたい。

 大黒信仰の中に潜むさまざまなコトには先人の知恵が沢山眠っているはずなのだ。地方ごとに祀られるその形、祀られ方、持ち物、そしてその一族。いずれにしても、民間信仰にある大黒天は明らかにマハカーラでも、大国主でもなく、その土地の神として立派にその責務を負ってきたはずだ。

 となれば、彼らの持つ七宝にはその地方で有用とされる薬が入っていたり、食べ物が入っていたり、なんらかのタネが残されている。大黒天は大地の下にあって、鉱物の神でもある。ゆえに鉱脈を操る民の隠語とともに祀られている形跡も多々あるのだ。

 

 ★12月14日(金)に産経新聞東京本社で井戸さんによる特別講座を開催します。民俗学から日本を読み解くシリーズ第3弾。今回は「日本のカミサマと鉱物のなぞ~たたら製鉄・星祭りから富山の薬売りまで~」を取り上げます。教科書には載ってない日本の知恵と暮らしを、豊富なフィールドワークでの実体験と知識に裏打ちされた井戸さんが独自の視点で丁寧に語ります。参加費は税込み3800円(薬膳ティー付き)。 現在参加者を募集中です。詳細はhttps://id.sankei.jp/v/?VID=user.event.entry&OP=detail&ID=432まで。



<プロフィール>

 井戸理恵子(いど・りえこ) 民俗情報工学研究家。1964年北海道北見市生まれ。國學院大学卒。多摩美術大学非常勤講師。ニッポン放送「魔法のラジオ」企画・監修。ゆきすきのくに代表として各種日本文化に関わるイベント開催。オーガニックカフェ「ゆきすきのくに」にて自然食を提供。二十数年来親交のある職人たちと古い技術を訪ねて歩く《職人出逢い旅》など15年以上に渡って実施中。気心しれた仲間との旅をみな楽しみにしてくれている。主な著書に「暦・しきたり・アエノコト 日本人が大切にしたいうつくしい暮らし」「こころもからだも整うしきたり十二か月」(ともに、かんき出版刊)、「日本人なら知っておきたい!カミサマを味方につける本」(PHP研究所)などがある。

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