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【書評】早稲田大教授・小沼純一が読む『折口信夫 秘恋の道』持田叙子著 恋とことば、物語の意味求め

『折口信夫 秘恋の道』持田叙子著
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 民俗学を、古代のことばを、文学を研究し、うたを詠み、小説をものした折口信夫。もし、あなたが気になってはいてもこの人物を敬遠しているなら、何を読んだらいいか迷っているなら、本書に目を通すといい。折口信夫みずからの生とことばの熱量をどこに注いでいるか、きっと知ることができるから。ただ、あなたの折口観に影はおとしてしまうかもしれないけれど。

 ある人物を描きたい。本人の書いたものに惹(ひ)かれ、残された多くの資料を読んできた。研究書や回想、評伝にもふれた。だが、「わたし」がみたあの人を書いた、描きだしたものはこれまでになかった。肝心なことがぬけおちている。「わたし」ならあの人に迫れる。証拠があるわけじゃない。でも、「わたし」にははっきりみえる。あの人に何がおこっていたのか、が。

 ときに客観的な資料を、ときにべつの論者のことばを引いて、折口信夫の生と性を、作品に読みとく。作家と文章をかさねて、ことばを本人の生を介して読んでいいか…疑問はしばしば浮かんだろう。そのうえで、虚構をまじえつつ、書く。それがひとつのやり方なのだ、と意志する。いま書いているものこそが物語、折口信夫が古代に幻視したことばのありようのこころみになるのだから、と。

 幼少期から熟年になるころまで、折口信夫の生がたどられる。石川啄木、与謝野晶子、宮武外骨、柳田国男。気になる人が、作品がつぎつぎにあらわれる。明治から大正、昭和とうつりかわってゆくなか、影響をうける。惹かれてゆく。いったい、では、自分はどうしたら、何をしたら?

 こうした煩悶(はんもん)とともに、本書で描きだされるのが恋。題名にもなっている秘められた恋だ。著者は秘められたものにじっと目をむけ、そむけることがない。そのつよさが、一途(いちず)さが文章の力、ことばの力、物語になって読み手に効果する。それは折口信夫が万葉集から、古代から時をこえて得たものでもあった。

 折口信夫をみつめることで、著者はみいだす。人が生きるなかでの恋とことば、物語がもつ意味を。(慶応義塾大学出版会・3200円+税)

 評・小沼純一(早稲田大学文学学術院教授)

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