PR

ライフ ライフ

【書評】文化部編集委員・三保谷浩輝が読む『好日日記 季節のように生きる』森下典子著 豊かな時が紡ぐ人生の哀歓

『好日(こうじつ)日記 季節のように生きる』森下典子著
Messenger

 かつて週刊誌のコラムで突撃取材をしていた著者。当時、その体験をまとめ、ドラマ化もされた本のタイトルから、思わず「典奴(のりやっこ)!」と反応してしまうのは、私と同じ50代半ば以上か。その後、エッセイストとして情感豊かな文章を紡ぎ続けている著者が「書くこと」と車の両輪のような関係というのが、40年以上習っている「お茶」だ。

 稽古の日々と自身の歩みを重ね、16年前に出版した『日日是好日(にちにちこれこうじつ) 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』がこの秋、映画化。公開に合わせて執筆された続編の本書は、前著から深みと味わいを増した人生の哀歓にあふれる。

 1月の小寒、大寒から季節をめぐり、暮れの大雪、冬至まで二十四節気に沿って一年の稽古を振り返る。行事、作法に加え、折々の茶室の風景が彩る。示唆に富んだ茶器、茶花、掛け軸の数々、庭の木々や空の色、日の長短、風の音、におい、先生の言葉、生徒たちのやりとり…。決して平坦(へいたん)でも、順風満帆ばかりでもない自身のありようも重なり、季節とともに移ろう。

 「私たちは、季節のめぐりの外ではなく、元々(もともと)、その中にいる…疲れたら流れの中にすべてをあずけていい」

 習い始めの頃、「柳緑花紅(柳は緑、花は紅(くれない))」の掛け軸に「やだ、単純!」と涙が出るほど笑った著者が、その意味の奥深さに気づき、「私の好きな言葉になった」。

 「完璧なお手前」を目指す焦りは、「稽古に終わりはない。終わりのない道を歩くことはなんて楽しいのだろう」の境地に。若い頃ほど目に見える成長はなくても、「見えないところで今も、内へ内へと熟しているのだ」と手応えもある。

 年を重ねることで見えてくるものがある。当たり前のことだが、こういうことか、と思わせる。そして、そこに至るための豊かな時を過ごせた場をうらやましくも思う。

 「変わらないものなどない。ずっとこのままではいられないのだ」

 だからこそ日々の出来事、出会いが「懐かしく、嬉(うれ)しく、切なく」なる。そんな世界が堪能できるだろう。(PARCO出版・1500円+税)

 評・三保谷浩輝(文化部編集委員)

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ