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【理研が語る】田んぼのトンボと、手足の風景 北嶋慶一 

赤とんぼ
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 ふと気がつけば動物のからだのでき方を探る発生生物学の日々を送っています。めまぐるしい研究の日々は戦いの連続ですが、あの、田んぼのあぜ道を歩いた少年の日々を思うに、ずいぶん遠いところまで来たのだとわかります。

 秋になると夕暮れ時には赤い色のトンボがたくさん飛んでいて、それ以外は、あぜ道に沿って立ち並ぶなんらかの支柱のひとつひとつに、それぞれ1匹ずつが止まっています。少年があぜ道を歩いていくとき、近くにいたトンボは飛び上がり、しばらくして少年が遠ざかっていくと、再びトンボは元の支柱に収まります。そして少年がずっとあぜ道を歩いていくと、トンボの「波」ができあがって揺れるのです。

 あのあぜ道をずっと行くとどこに行き着くのか、当時は想像も及びませんでしたが、どういうわけか発生生物学に行き着くらしく、現在は動物の手足の骨のパターンがどうしてできるのかの研究をしています。私たちの手足の指は、いつも同じ大きさで同じ本数ができて生まれてきますが、じつは、こうしたパターンがどうしていつも同じにできるのか、よくわかっていないのです。

 どうやら、指の骨ができるとき、なんらかの「波」が生じていて、その波が高く飛び上がったところが、あとで骨になっていくらしいことがわかっています。しかし当然のことですが、手足の中で飛び上がっているのはトンボではない何かで、またあぜ道を歩く少年も見あたりません。目下の課題は、もう一度トンボと少年を捉え直し、それらを明らかにすることです。

 そういう意味では、あの田んぼのあぜ道は今日もまだ続いているようで、めまぐるしい研究の日々はつくづく複雑に、あぜ道を複雑にしていくようでもありますが、ありがたいことに、本当にありがたいことに、たくさんの人の手助けがあって、少しずつ進んでいる実感があります。自分は誠実に研究に取り組むことで、この助力に報いたいと思います。そして、あぜ道をずっと進んでいった先で、少年が歩いたトンボと田んぼの風景が(実際には)どのようであったかを伝えられればと思うのです。

 北嶋慶一(きたじま・けいいち) 秋田県生まれ。理化学研究所BDR研修生。東北大学大学院生命科学研究科博士課程。日本学術振興会特別研究員(DC2)。

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