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【話の肖像画】指揮者、リッカルド・ムーティ(77)(5)

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 わが人生は献身と犠牲

 〈世界最高峰とも言われるオーストリアのウィーン・フィルハーモニー管弦楽団との深い信頼関係はよく知られる。新年恒例のニューイヤーコンサートでは5度も指揮を務め、名誉会員の称号も贈られている〉

 米フィラデルフィア管弦楽団、イタリアのミラノ・スカラ座、米シカゴ交響楽団などいろいろなオーケストラの音楽監督を務めてきました。中でも、深い関係を保ち、特別な名誉を感じているのがウィーン・フィルです。今年で約50年間も途切れることなく共演しています。

 ウィーン・フィルは私を名誉会員にしてくれましたが、ウィーンの町もオーストリアも私にさまざまな賞や栄誉を与えてくれました。特に重要なのが、ウィーン楽友協会の名誉会員です。19世紀初頭に設立され、ドイツの作曲家、ベートーベンやブラームスなどがみんなメンバーでした。ただ、あそこでブラームスの作品を演奏すると、パンフレットに「ブラームス名誉会員」と一緒に「指揮=ムーティ名誉会員」と書かれてしまう。あんな天才と並べられるのはちょっと困惑しますね。

 〈若手指揮者に対してはイタリアの指揮者、トスカニーニの言葉を引用し「腕を振ることならロバでもできる」と手厳しい〉

 単にテンポを刻むことと教養を基にオーケストラを導いていくことはまるで違います。100人以上の人々に自分の解釈を納得させることで、演奏は成り立つのです。人々を説得するには知識やカリスマ性、魅力が身についていなければならない。

 今も才能ある指揮者は次々に生まれていますが、育てるための時間が欠けている。教養を身に付け、経験を積むことが大事なのに、最近は20歳の指揮者が平気でベートーベンの「交響曲第九番」を指揮してしまう。彼の作品の中で最も神秘的な曲で、演奏には音楽家としての成熟が必要です。

 私はこの年になって、まだベートーベンの「ミサ・ソレムニス(荘厳ミサ曲)」は指揮していません。私の技術では、この作品の持つ哲学的な部分が表現しきれないと思うからです。指揮者に一番大切なのは、指揮者になるための準備なのです。

 〈イタリアで若手の音楽家育成のため、2015年から毎夏「イタリア・オペラ・アカデミー」を開催。その日本版である「イタリア・オペラ・アカデミーin東京」を来年の3~4月、日本で開催する〉

 若い人たちには、表面的な努力で勝ち得た成功は長続きしないと伝えたいですね。芸術の道を歩むなら、自分の課題に真剣に深く取り組むことがより良い結果を生む、ということを教えたいと思っています。

 〈最後に「あなたの音楽人生を一言で表すと?」と質問すると、一瞬考え込んだ〉

 一言では難しいですね。少なくとも二言は必要です。「献身」と「犠牲」。そして、それを払う価値があったことは確かです。 (聞き手 竹中文) =次回はポケットマルシェ代表の高橋博之さん

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