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【書評】文芸評論家・縄田一男が読む『新・水滸後伝(上巻・下巻)』田中芳樹著 梁山泊、好漢たちの心意気

『新・水滸後伝(上巻・下巻)』田中芳樹著
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 「『水滸伝』は、梁山泊に集まった108人の豪傑が皇帝をとりまく佞臣(ねいしん)たちをやっつける痛快な話と受け取られがちですけど、実はどんな英雄でも権力には勝てない、という物語なんです」と言って戦中派の感慨を込めつつ『悲華水滸伝』を書いたのは、杉本苑子さんだった。

 一方、中国でも清代に陳忱(ちんしん)が後日談として『水滸後伝』を書いているが、それでもまだおさまらない作家が、とうとう『新・水滸後伝』を書いた-田中芳樹である。

 本書巻頭には“水滸伝百八星一覧表”が記され、『水滸伝』完結時に生き残った者の名前の上には黒丸がある。その数僅か33人。

 発端は、その梁山泊の残党の一人、阮小七(げんしょうしち)が、行きがかり上、ある役人を殺してしまったことから逃亡の身となったこと。世の中は、かつての仲間たちと大暴れしていたときのように汚吏がはびこり、各地で梁山泊の残党が、再び蜂起しはじめる。男たちは、それぞれ、登雲山と飯馬川を新たな拠点として、かつての日々に思いをめぐらす。

 田中の軽快かつ向日性の文体は、ページを繰る手を止めさせない。

 戦いのスケールは、仲間が増すごとにますます迫力に満ち、金軍の侵攻ばかりでなく下巻に入ると、傾国の危機にある暹羅(せんら)を乗っ取るべく蠢(うごめ)きだす佞臣と奇怪な妖術師・薩頭陀(さっとうだ)が手を組み、物語はますます波瀾(はらん)万丈。この妖術師が実に不気味で、伝奇小説のうま味をたっぷりと味わわせてくれる。さて、田中版『新・水滸後伝』は知略、謀略、妖術との戦い、海戦等を通して、梁山泊の好漢たちが己のユートピア建国を目指そうとする物語だが、果たしてその行方はいかに-。

 書評を書いている当方としても、その快調な展開に思わず、張り扇でも叩(たた)きたくなる。陳忱には申し訳ないが、田中版のほうが面白いのだ。

 大団円はハッピー・エンドとなるのだろうか。戦いの最中にのんきに交わされる「平和になったら、酒を飲むぐらいしか、やることがない」とのセリフが好漢たちの心意気として長く印象に残る。(講談社・各1600円+税)

 評・縄田一男(文芸評論家)

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