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【本ナビ+1】一風かわった角度から再発見 文芸評論家・富岡幸一郎

文芸評論家・富岡幸一郎氏
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 ■『波瀾万丈の明治小説』杉原志啓著(論創社・2000円+税)

 明治150年ということで、維新の人物を見直す本がさまざま出ているが、明治といえば文学の登場を忘れるわけにはいかない。近代の「国民」の自覚は、新しい日本語の模索と形成によって、つまり明治期の「小説」によって強くうながされたからだ。

 明治文学というと、漱石、鴎外。あるいは二葉亭四迷や北村透谷、国木田独歩や田山花袋らをメインに習う。しかし、この本の著者は、一風かわった角度から「明治小説」を再発見してみせる。

 面白く、ワクワクさせる、読み始めたらとまらない小説。まずは徳富蘆花の自伝作『思出の記』との出合いから、泉鏡花『婦(おんな)系図』、尾崎紅葉『金色夜叉』、そして蘆花の『不如帰(ほととぎす)』。今日読んでも決して古びていない。それは物語としての面白さもあるが、何よりも文章の力によるものだ。感涙は美しき文体に宿る。この日本語を日本人が忘れてしまうのはいかにも惜しいではないか。

 いや、ほとんど忘れ去られた明治文学のジャンルもある。「政治小説」なるものである。取り上げられるのは矢野龍渓『経国美談』。明治16~17年に刊行されたこの作品は、自由民権運動で盛り上がる青年たちの政治への熱狂を背景に、理想的な「民権政治」を古代ギリシャの史実に仮構して物語とした政治活劇で、飛ぶように売れたという。

 また東海散士『佳人之奇遇』(18~30年)は、主人公が異国の地で国民の自由と独立への憧憬を謳(うた)いあげる国際的なロマンと国士の情熱を描く。明治という時代は、文士はまさに国士であったのだ。独歩の日清戦争従軍ルポ『愛弟通信』にもそれはうかがえる。日本政治思想史の専門家たる著者ならではの類書なき明治文学入門である。

                   

 ■『隠れたる事実 明治裏面史』伊藤痴遊著(講談社文芸文庫・2200円+税)

 明治14年、自由党に参加し急進的政治活動で何度も投獄された伊藤痴遊は、卓越した話術で幕末維新の歴史を、生々しい事件として語り残した。明治の政治小説とも相通じる本書は、講釈という古くからの話芸に近代人としての政治感覚を注入。まさに新しい日本語による歴史絵巻である。文字の背後から、明治の若き日本人の、その壮快な「声」が聞こえてくる。

                   

【プロフィル】富岡幸一郎(とみおか・こういちろう) 昭和32年、東京生まれ。中央大学仏文科卒。『群像』新人文学賞評論優秀作。関東学院大学教授、鎌倉文学館館長。著書に『内村鑑三』他。

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