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【職人のこころ】10月10日、とおとたらり

井戸理恵子さん
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 10月10日、鷲宮神社を訪れた。埼玉県久喜市に鎮座する関東最古の土師(はじ)氏の宮である。ここで奉じられる「催馬楽神楽」は国の無形民俗文化財第一号に指定されている。

 土師の一門は土師器という土器の名前からも察することができるように陶工としての職人や、相撲の始祖である、野見宿禰(のみのすくね)、当麻蹴速(たいまのけはや)をはじめ、大地を鎮めるまつりごとに従事した人々である。

 大地をまつるということは大地を知る、ということ。大地の下にはわれわれ祖先の古の知恵が眠っている。大地を知らずに大地をまつることはできない。土をこね、土を焼き、土を育て、土に身を委ね、未来への糧を得る技術を生み出す。

 この宮の催馬楽神楽は中央に大幣、向かって左側に小さな祓い幣、右側に5色の幣が施された神座を神楽殿の前方に立てるという舞台が用意されていた。

 秋季大祭、12の演目の内、幾つかが奉じられるという。まず「天照国照太祝詞神詠之段」といった祝詞と清めの演目から始まり、「天心一貫本末神楽歌催馬楽段」という地鎮祭のような舞が舞われた。この舞は榊と笹、鈴をもつ2人の舞手、それぞれ万木の元とされる榊をもった「手置帆負命という大工の神」と、屋根をふく材料としての笹をもった「彦狭知命という屋根職人としての神」が互いに交差しながら、天と地を仰ぐように隙間なく、清め、まつる。

 国造りの始まりは新しい家を作る時と同じなのだ、と神職が説明する。これらの神々は大工たちの祭典に参加した時に必ずまつられている神々だ。職人以外にはあまり知られていない。

 続く「天神地祇感応納受之段」では男女の面をつけた、恐らく国引き神話においてのイザナギ、イザナミの役割をもつ2人の舞手が現れた。陰陽としての大地と天を感応させ、国が生まれる、というストーリーなのだろう。不思議な足運びで国中を歩いては清めていくといった動作がなされる。「護国最上国家経営之段」では2人の黒い翁面をつけた2人の舞手が米と酒を持ち、恵みをこいては神々に米と酒を奉じる。

 また、午後の部では天照の子供でもある天女が地上に舞い降りるという段で巫女(みこ)舞がなされる。

 こうしてみると、催馬楽神楽には土師の一門のさまざまな職人の技術が暗示されている。国の設計(都市設計)にどういった材料を選ぶかは職人の技量と知見次第。異なるものを融合させることによる国の度量の大きさ、食べ物を得るための技術、大地への感謝としての祈りの深さを「黒い翁」を通して伝える。黒翁の黒は大地の下のまさに「大黒」であり、やがて来たる「兆」を示す。「経世済民」、「世を経め、民を済う」型とは大地の下にその答えがあるとでもいうように振る舞うのだ。

 10月10日、とおとたらり。能の翁が「とうとうたらり、とうたらり」と現れるのは明らかに豊かな未来の兆しを引き寄せるためである。豊かな約束された未来という呪言である。


〈プロフィール〉

 井戸理恵子(いど・りえこ) 民俗情報工学研究家。1964年北海道北見市生まれ。國學院大学卒。多摩美術大学非常勤講師。ニッポン放送「魔法のラジオ」企画・監修。ゆきすきのくに代表として各種日本文化に関わるイベント開催。オーガニックカフェ「ゆきすきのくに」にて自然食を提供。二十数年来親交のある職人たちと古い技術を訪ねて歩く《職人出逢い旅》など15年以上に渡って実施中。気心しれた仲間との旅をみな楽しみにしてくれている。主な著書に「暦・しきたり・アエノコト 日本人が大切にしたいうつくしい暮らし」「こころもからだも整うしきたり十二か月」(ともに、かんき出版刊)、「日本人なら知っておきたい!カミサマを味方につける本」(PHP研究所)などがある。


 ★10月26日(午後7時~)に、産経新聞東京本社で井戸さんの特別講座「縄文と陶工(すゑものづくり)の系譜~大地への祈り~」を開催する。いま注目の縄文土器について、原料から模様、形、そこに込められた人々の思いなど、井戸さんならではの視点で、縄文文化と暮らしの知恵をひもといていく。参加費は3800円(税込み、薬膳ティー付き)。問い合わせはhttps://id.sankei.jp/e/307

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