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【書評】小説家・浅暮三文が読む『変わったタイプ』トム・ハンクス著、小川高義訳 多彩なアメリカ短編の醍醐味

『変わったタイプ』トム・ハンクス著、小川高義訳
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 私ごとで恐縮だが、まだ20歳の頃、ニューヨーカー短編集やピート・ハミルに熱中していた。マジック・リアリズムとかポストモダンとかいったすれっからしの文学用語を知る前のこと。俳優、トム・ハンクスの処女作『変わったタイプ』も、前述の延長線上にあり、アメリカ短編小説がバラエティー豊かに17本詰まっている。

 冒頭の一編「へとへとの三週間」では僕と恋人のアンナ、その仲間の4人組が登場する。彼らは話の最後で南極へ出かける。また真ん中辺りの「アラン・ビーン、ほか四名」では、ホームセンターで買い集めた材料で裏庭にでっち上げたロケットに乗り、月を一周してくる。

 マーク・トウェーンさながらの愉快な法螺(ほら)話。米南西部伝承の滑稽譚(たん)(ホールテール)を思わせ、どこか懐かしい読後感がある。

 私が気に入った作品は「コスタスに会え」。主人公アッサンはギリシャからアメリカへ向かう船の機関士になる。

 「とりあえず雇われて、アメリカに着いたら逃げるつもりだな」と機関長は見抜いている。アッサンは政治難民。やがてニューヨークに上陸すると連れて行かれた理髪店で機関長と別れる。これからどうするか。アッサンは、ニューヨークが手のひらのような形で何番街とは指先から手首へ縦に延びる筋、何丁目とは手のひらを横切る-と機関長から教わっている。

 こうして手のひらを地図代わりにアッサンはニューヨークをさすらい、セントラルパークで野宿し、何度もたたき出されたギリシャ料理店で鍋磨きから始めることになる。

 ハンクスは、タイプライターの収集家で一連の作品にも登場するが、『変わったタイプ』とは、めずらしい書体(タイプ)のことらしい。つまり変わった書体のような、奇妙な人々を17本の作品におさめたわけだ。

 SFあり、法螺話あり、さらりとしたスケッチがある。人間のドラマは小さなことにあるのだと心得ている、とは英タイムズ紙の書評。いつかまた読もうと、本棚にしまっておきたくなった。(新潮クレスト・ブックス・2400円+税)

 評・浅暮三文(小説家)

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