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【書評】文化部・桑原聡が読む『対談・吉田茂という反省』阿羅健一、杉原誠四郎著 真の独立国家になるために反省すべき点

吉田茂という反省
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 「戦後の大宰相」という評価が定まったように見える吉田茂。本書は吉田の功罪を明らかにして反省すべき点は反省しない限り、憲法を改正しても何も変わらない、つまりはわが国は真の独立国家にはなり得ない、との危機意識に立ってなされた対談である。

 南京事件研究で著名な阿羅健一氏と「新しい歴史教科書をつくる会」会長を務めた近現代史家の杉原誠四郎氏は、奉天総領事だった吉田が張作霖に招かれたおり、用意された食事に口をつけなかったエピソードから、好悪の激しい吉田のパーソナリティーに切り込んでゆく。好悪に従って横柄な態度を平然と取った吉田には、外交官としての責任感が完全に欠如しており、こうした振る舞いは、その後の吉田に一貫して見られるものだという。

 終戦直後、外務省の後輩、来栖三郎に宛てた書簡で吉田は「もし悪魔に息子がいるとすれば、その息子は東条(英機)だ」と書いた。「近衛上奏文」への関与により昭和20年4月15日、陸軍刑法違反で検挙された吉田は、東条と軍への憎悪を募らせる。元来反戦・反軍的な外交官ではなかった吉田だが、検挙されるという経歴によってGHQの信頼を得るようになる。

 25年6月、朝鮮戦争勃発直前、米国に再軍備を要請された吉田は、経済事情と国民感情を理由にこれを拒否する。朝鮮戦争が始まると警察予備隊が誕生するが、吉田は旧陸軍人脈が指導を担うのを嫌って旧内務省人脈に託した。

 憲法9条をめぐっても、自衛戦争を否定しないと解釈できる「芦田修正」を無視、日本には交戦権がないという解釈に固執してこれを固定化してしまった。それゆえ26年9月に結ばれた日米安全保障条約は片務的な内容となり、日本は米国の従属国のような地位に陥る。27年4月、日本は主権を回復するが、吉田は軍事力を備えるため、つまり独立国家になるための憲法改正にいささかの関心も示さなかった。

 こうした大局観の欠如した吉田政治は、いまなお外務省と内閣法制局に影を落とし、日本を拘束し続けている。(自由社・2500円+税)

 評・桑原聡(文化部)

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