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【書評】ノンフィクション作家・河合香織が読む『どこにでも神様』野村進著 目に見えない「縁」に感謝

『どこにでも神様』野村進著
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 日本中が神無月のとき、出雲地方では全国の神々が寄り集う「神在月」となる。本書は、神とともに暮らす山陰地方の人々の姿を描いたノンフィクション。著者は出雲とバリ島の共通点に着目し、出雲大社をはじめ神社と神社ガール、鳥取県境港市の「水木しげるロード」、そして石見神楽(紅白歌合戦さえしのぐ人気!)を柱に据えた。

 描かれるのは見えるものではなく、見えないもの。膝小僧にも神様が宿るとして毎年師走には膝の神様にぼた餅をお供えする。不動産広告には「荒神様有り」と書かれ、鶏が時を違えたために大けがしてしまった「恵比寿様」の神話を信じて今も卵を積極的に食べない土地もある。

 保育園児は神楽ごっこに夢中になり、クリスマスプレゼントに「神楽のお面」をねだる。神話の時間は止まらず、世代を超えてリアルタイムに進化し続けていく姿が熟練の筆で浮き彫りになっていく。

 名高いノンフィクション作品を40年にわたり書いてきた著者は、「見るべき程の事は見つ」という心境に傾きかけていたと述べる。しかし、山陰の人や自然や「目に見えないなにものか」から、ちっぽけな諦観を一笑に付されたような気がしたと思い至る。人間は一人で生きていると思っていても、「目に見えないなにものか」に動かされているのだと考え、「縁」を大切にしていく心の変化が興味深い。

 根底に流れる主題は、神とともに生きる人たちが持つ「多幸感」のありようから幸福とは何かを考える軌跡だろう。なかでも水木しげるの幸福感について、本書で京極夏彦が語った「基本は生きていれば幸福なんです。でも、恐怖や悲しみが一定量なければ、幸福は感じられない」という言葉の深遠さに心が揺さぶられる。

 神楽の舞子も観客も、その時は神になるだけではなく、鬼にもなる。神や自然、受け継がれてきたものに畏敬を持ち、すべてを受け入れて穏やかに暮らす人々の知から、日本人が元来持っていた幸福の姿が鮮やかに描き出される。

 この書に出会った「縁」に感謝したくなる一冊だ。(新潮社・1650円+税)

 評・河合香織(ノンフィクション作家)

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