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【文芸時評】10月号 早稲田大学教授・石原千秋 おばあさんの時代

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 紅野謙介が怒っている。いま進行している教育の「改革」に対してである(『国語教育の危機-大学入学共通テストと新指導要領』ちくま新書)。新指導要領やセンター試験に代わる新テスト(大学入学共通テスト)でもっとも大きな「被害」を受けるのは国語である。

 僕は、義務教育で使われている国語教科書を分析して、〈国語教育は道徳教育となっている〉と批判したことがある。たとえば、文学はどう読んでもいいはずなのに、学校では「正解」が一つに決まる。それは、道徳に見合った読み方だけが「正解」となるからだ。つまり、国語には「道徳」という明示されないルールがあって、それがわかれば「国語ができる」ことになる。これは国語教育の名を借りた道徳教育だと批判した(『国語教科書の思想』ちくま新書)。

 今度の「改革」が文学の息の根を止めるものになることは知っていたが、紅野謙介の本から多くのことを学んだ。試験的に行われた新テストのひどさ。文章から読み取るのは「情報」だけでいいと考えられているようだが、そもそも文脈を離れた「情報」はあり得ない。では、新テストでは明示されないどういう文脈が与えられているのか。新テストでは、役所が作成したとされる文書を読ませて記述で解答させるのだが、それに批判は許されない。〈お上の言うことは正しい〉という大前提で解答しなければならないのだ。これはもう道徳教育どころではない。

 複数の文章を読んで解答しなければならない設問を無理に作ったためにできあがった多くの愚問も厳しく批判している。大学入試の抜本改革を促した安西祐一郎がインタビューに答えて、「国語の記述式解答用紙を見て、『よくここまで来た』と思いました」と言っている。この言葉から、おそらく安西はその言葉通り「見たのは『解答用紙』の方なのでしょう」と推測する。問題は見てもいないのだろう。こういう無責任な「有識者」によって進められた「改革」によって、近代文学のみならず、古典も国語教育から実質的に退場させられるだろうと、紅野は予測する。文化の継承も批判的思考も消し去られるわけだ。紅野の批判に賛成するか否かは別にして、国語教育に関心のあるものなら読んでおかなければならない本である。

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