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【書評】書評家・杉江松恋が読む『インジョーカー』深町秋生著 活劇こそが心を動かす

『インジョーカー』深町秋生著
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 怒りの炎を燃やし続けよ。

 そんな叫びが聞こえてくる小説だ。何に対しての怒りか。すべての悪党、すべての偽善者、世にはびこるすべての不正。そうしたものと闘うため、深町秋生は八神瑛子という刑事を創造した。本書は彼女が活躍する連作の第4弾にあたる長編だ。

 八神の所属は警視庁上野署の組織犯罪対策課である。同僚に金を貸して恩義で縛り、裏社会の人間と通じて情報を集めるなど、警官にあるまじき行為に手を染めた彼女を汚れた警官と謗(そし)る者は多い。だがそれらはすべて、悪を潰すためなのだ。部下と共に独自の道を歩む八神に、ついに危機が訪れる。彼女を告発せんと警務部の監察が動き始めたのだ。その背景には警察内部の暗い権力抗争があった。

 『インジョーカー』では、八神の内なる闘いも描かれる。彼女が手段を選ばない警官になったのは、口封じのために夫・八神雅也を殺した巨悪に対抗するためだった。前作『アウトサイダー』の結末においてその復讐(ふくしゅう)は成就した。しかしそれは汚い手を使う警官であることの大義名分を失わせもしたのである。警察組織に巣くう怪物を退治する闘いだったはずなのに、自分自身が怪物になりつつある。そのことを自覚した八神は人知れず苦悩し、小説の最後にはある決断を下す。

 轟々(ごうごう)と音を立てながら飛び過ぎていく物語である。複数の登場人物がおのれの思惑に沿って動く。ビリヤード台上で弾(はじ)かれた球のように彼らはぶつかり合い、そのことで事態を加速させていくのである。結末に訪れるのは目も眩(くら)むような暴力の祭典、正義と悪とが一堂に会する血の闘いだ。活劇こそが読者の心を動かす最終兵器だと心得る深町は、ここぞとばかりに熱い言葉をぶつけてくる。ページをめくりながら、他にはない高揚感を味わうはずである。

 世に警察小説は数多いが、ここまで端的な形で正義の本質を問い、悪への怒りをぶつけてくる作品は珍しい。八神瑛子は読者の横っ面を引っぱたき、鈍磨した感覚に活を入れる。その熱さが読者の心を奮い立たせてくれるのだ。(幻冬舎・1600円+税)

 評・杉江松恋(書評家)

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