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【書評】ジャーナリスト井口優子が読む『WHAT HAPPENED 何が起きたのか?』ヒラリー・クリントン著 敗者が語る大統領選

『WHAT HAPPENED 何が起きたのか?』
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 ■なんという野心、タフさ

 2016年アメリカ大統領選。やはり、初の女性大統領は誕生しなかった。

 敗者は黙って「優雅に全てを受け入れる」べきだが、トランプ大統領のアメリカに民主主義の危機を見て声を上げる決意をした。その表れの一つが本書。昨年9月に米で出版され100万部突破。日本でも待望の翻訳本が出た。

 「これは、わたしの身に起きたことの物語だ」との一文で始まり、立候補を決めた14年秋から選挙までの2年間に、彼女が見て感じて考えたことを「包み隠さず」語る手法を選ぶ。まだ「疑惑」と表現される出来事もあるゆえか。とはいえ、そこは弁護士。彼女のチームが集めたデータを駆使して説得力を持たせ、ヒラリー節炸裂(さくれつ)に圧倒される520ページである。

 なぜ負けたのか? 最大の要因はアメリカの繁栄を支えてきたのに、今、困窮し、希望を失った労働者たちの絶望的なまでの怒りだった。彼らに寄り添いたいとの彼女の想(おも)いも、経済再生の具体案も、彼らの怒りの前には無力だった。このことに「真っ向から対峙(たいじ)」しなければならないと冷静に考察する。

 一方で怒りも爆発させる。戦う相手はトランプのみならず、ロシア疑惑、フェイクニュース、私用メール問題に関する大手新聞の報道、FBI長官による先例のない選挙介入…。これまで公の場では触れなかった“性差別”も語る。アメリカの政界における女性差別は、時に「屈辱にもなりうる」ほど残酷なことを。

 魑魅魍魎(ちみもうりょう)が潜むかくも恐ろしい大統領選に立候補した理由は、「自分にできる可能性のある善行のうち、最大のものを実行するチャンス」。なんという野心と信念!

 衝撃の敗戦から立ち直り、この国の民主制を守るためにトランプとは対極の「愛と優しさ」を選んで人々とともに「前進する」ことを最後に宣言する。なんというタフさ!

 評者はクリントン大統領時代から15年ほどアメリカに住んだが、彼女に体現される“前向きの信念とタフさ”こそがアメリカの強さであることを、この本を読んで改めて実感した。(ヒラリー・ロダム・クリントン著、高山祥子訳/光文社・2000円+税)

 評・井口優子(ジャーナリスト)

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