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【書評】作家・畑中章宏が読む『仏像と日本人 宗教と美の近現代』碧海寿広著 仏像は宗教の排他性超える

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【書評】
作家・畑中章宏が読む『仏像と日本人 宗教と美の近現代』碧海寿広著 仏像は宗教の排他性超える

『仏像と日本人宗教と美の近現代』碧海寿広著(中公新書・860円+税) 『仏像と日本人宗教と美の近現代』碧海寿広著(中公新書・860円+税)

 仏像ブームと言われるようになって、すでに十数年はたつだろうか。奈良や京都の寺院には、国宝や重要文化財に指定された「傑作」を見るために多くの人が足を運び、首都圏の博物館で「名品」が展示されると行列をなすことも少なくない。しかし、仏像を信仰心から離れた美術としてみるようになったのは、明治以降のことである。

 古代から中世まで、仏像は寺院を建立した皇族・貴族・武将たちもので、庶民の目に届くことはなかった。近世以降、霊場への巡礼や出開帳によって、仏像は庶民にも身近なものになっていった。

 近代化にあたり、王政復古、祭政一致を成し遂げるため神仏分離令が発され、寺院の堂塔・仏像を打ち壊す廃仏毀釈(きしゃく)が起こった。一方で、文化財としての仏像は、信仰を抜きに称揚されていくようになる。本書は、文化財、美術品としての仏像の発見者、フェノロサと岡倉天心以降、仏像がどのように語られてきたかを丹念にたどっていく。

 宗教的巡礼とは意識的に距離を取った古美術巡礼をめざしながら、仏像の神聖性にふれてしまった和辻哲郎。仏像を信仰の対象として捉え、「古人の魂」の産物にひれふした亀井勝一郎。写真家の土門拳は仏像との視覚的かつ心的な交流を突き詰め、同じく入江泰吉は仏像に先人たちの心の痕跡を読み取ろうとしたと記す。また、白洲正子は、芸術の側に立とうとした和辻、仏像を信仰の対象とすることにこだわった亀井の双方を相対化して、自分なりの向き合い方を思索した。

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