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【欲望の美術史】宮下規久朗 西郷隆盛 肖像に表れる英雄への思慕

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 西郷に師事した元庄内藩士の石川静正が、西郷の慰霊祭で掲げるために描いた肖像画は、今回の展覧会のポスターになっているが、温和で優しげな表情であり、作者の西郷への思慕の念が表れているようだ。

 だが、西郷像でもっとも親しまれているイメージは、東京の上野公園に建つ銅像であろう。「上野の西郷さん」として都市のメルクマールになって親しまれている。東京美術学校に制作が依頼され、高村光雲が同僚や弟子たちと10年近くかけて作った像で、木彫を原型としているため、仏像のような丸みのある造形となっている。

 しかし、1898年にこの像が除幕されたとき、西郷未亡人の糸が、主人はこんな人ではないと叫んで関係者をあわてさせたのは有名である。それほどまでに、この像は西郷に似ていなかったのだろうか。そうではなく、この像が浴衣の着流し姿だったため、西郷は浴衣姿で人前に出るような礼儀知らずではないと訴えたというのが真相だとされる。

 これより10年ほど前、京都に西郷の騎馬像を建設する計画があったが、発起人の死によって頓挫しており、また東京の西郷像も当初は、馬上の陸軍大将の軍服姿という計画であったのが、資金の問題から縮小されたものであった。糸はこうした計画を知っていた可能性があり、そのためにあの姿に落胆したのかもしれない。

 軍服姿のいかめしい姿や堂々たる騎馬像はたしかに英雄にふさわしいが、それよりも、この像はモニュメントとしては異例なことに、愛犬をつれた日常的な姿であるがゆえに、長く人々に愛されてきたのである。(美術史家、神戸大大学院人文学研究科教授)=月1回掲載します

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