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【文芸時評】9月号 早稲田大学教授・石原千秋 見つめ合ったらいかが?

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【文芸時評】
9月号 早稲田大学教授・石原千秋 見つめ合ったらいかが?

 「大学は共学だからこわい」と学生が言う。男子学生である。女子学生が「男がいる環境になじめない」と言うのは以前からよく耳にした。それを男子学生も口にするようになったのである。大学の教師を36年もやっているとわかることがある。1年生の基礎演習という20人弱のクラスで行う導入教育では、関わり方の密度が高いからだろう、その学生が男子校の出身か女子校の出身かがなんとなくわかることがあるのだ。どこという決め手があるわけではない。自己表現の雰囲気がちがうのである。自己表現の宛先と自分を眼差(まなざ)す差出人がちがうからだろう。たぶん、見ることよりも、より多く見られることのジェンダーとセクシュアリティーの問題だと思う。つまりは身体の問題だから、雰囲気に表れるのだろう。

 かつて身体論がはやった頃には、自己と他者の境界がテーマだった。特に見られる身体においては両者が交じり合うという問題提起だった。男子校や女子校の出身者に異性の眼差しが「こわい」ことがあるのは、学生たちの見られる身体はまだ2つの性が交じり合わず、異性の眼差しを受け止めきれずにいるからだろう。視線恐怖症という神経症は日本でしか症例が報告されていないというから、きわめて文化的な問題でもある。性の境界が溶け始めたこの時代にかえってこういう声が多く聞かれるようになったことは興味深い。こういう眼差しをテーマ化した文学はどれくらいあるだろう。僕が何を言おうとしているかはわかるだろうから、もうこれ以上は言わずに、今月の仕事につなげよう。

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