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【本ナビ+1】作家・北康利 『師弟 棋士たち魂の伝承』 教育の美しき伝統 将棋の世界に今も

作家の北康利氏
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 未曽有の大ブームに沸く将棋界を、師弟関係という興味深い切り口で見せてくれたのが本書である。綿密な取材による魅力的なエピソード、棋士たちの口にする含蓄ある言葉の数々。カメラマンでもある著者の写真は、時として文章以上に雄弁に語りかけてくる。

 将棋の世界で弟子をとることは一人の人生を預かるに等しい。冒頭は、幸運にも谷川浩司の弟子になれた都成竜馬。最強の駒の名を持ち、阪神淡路大震災の日が誕生日という都成は、運命に導かれるように小学校5年生で弟子入りする。宮崎に住む彼は飛行機で大阪に来て対局に臨み、翌朝の始発便で帰っていく。神戸に住む谷川は彼の指した棋譜を添削し、励ましの手紙を添えて送ってやる。

 ところが都成は、強いといわれながらも昇級昇段に手間取ってしまう。奨励会から時間切れで去っていく者も多く、同世代は大学を出て社会人になっていく。谷川の唯一の弟子であるという誇りとプレッシャーの中で都成は揺れた。

 一方の谷川も、日本将棋連盟会長に就任し多忙を極める中、都成をどう指導していくか悩み続ける。そして弟子入りしてから16年がたち、ようやく四段に昇格してプロ棋士となったとき、師は万感の思いを込めて自筆の将棋駒を贈る。弟子は師を敬愛し、師は弟子を慈しみ、その弟子もいつの日か師となっていく。

 かつてわが国の教育現場のいたるところで見られた美しい伝統のスパイラルが、ここにはまだ息づいている。時には師弟対決という非情な場面も訪れるが、そこにまた美しいドラマがある。将棋を題材に、教育論・文化論・日本人論など、さまざまな角度から学べる一冊だ。(野澤亘伸著/光文社・1400円+税)

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