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【新・仕事の周辺】佐藤モニカ(歌人・小説家) 歌は電光掲示板のように浮かぶ

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【新・仕事の周辺】
佐藤モニカ(歌人・小説家) 歌は電光掲示板のように浮かぶ

歌人・小説家の佐藤モニカさん(提供写真) 歌人・小説家の佐藤モニカさん(提供写真)

 パソコンの前に座り、じっくりと歌を作ることは、私の場合、ほとんどないといっていい。なにかこう、体を動かしていた方が、ものが浮かぶ。よくやるのは、散歩と家事である。息子をベビーカーにのせて、近所をぐるぐる回っていると、どういうわけだか、よく歌が浮かぶ。散歩は散歩のみの時もあるし、買い物ついでの散歩の時もある。

 息子がもっと小さい時は、明け方まで寝ない日や夜中の2時や3時に目を覚ましてしまうことがよくあった。そんな時は朝の散歩に出かけた。黄みがかった空に徐々に朱色がさしこむ中、鳥がさえずり、海風が流れる。辺りは湿った草の匂いがし、ハイビスカスやユウナがあざやかに咲いている。眠かったけれど、不思議と歩いていると、すがすがしい気分になったものである。その頃は息子に抱っこ紐(ひも)を使っていたが、適度な揺れが心地よいのか、しばらく歩くとたちまち、息子は寝つくのだった。成長するにつれ、夜泣きはだんだんと減っていったが、今も完全になくなったわけではない。

 いずれにせよ、息子が寝ついてからが私の仕事の時間だから、息子が寝るまでは付き合い、それから仕事をはじめる。この原稿を書いているのも、夜中の2時だ。外は真っ暗で、少し離れたところに見える家々の窓には、ひとつも明かりが灯(とも)っていない。窓を開けると、しんとした空気だけがこちらへ伝わってくる。

 今年の4月、歌集『夏の領域』が現代歌人協会賞と日本歌人クラブ新人賞に決まった。授賞式の日の私もまた、あいもかわらず、寝不足ではあったものの、晴れがましい気持ちだった。壇上で受賞のスピーチをする私の足元に、手作りの赤い蝶(ちょう)ネクタイをつけた息子の姿があった。

                   

【プロフィル】佐藤モニカ

 さとう・もにか 昭和49年生まれ、千葉県出身。短歌結社「心の花」所属。佐佐木幸綱氏に師事。平成25年から沖縄県名護市在住。27年、小説「カーディガン」で第45回九州芸術祭文学賞最優秀賞。29年、詩集『サントス港』で第40回山之口貘賞。30年、歌集『夏の領域』で第62回現代歌人協会賞と第24回日本歌人クラブ新人賞。現代歌人協会会員、日本歌人クラブ会員。

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