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【職人のこころ】風土と密接に繋がる職人との交流と未来づくり

井戸理恵子さん
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 民俗情報工学研究家で多摩美術大学非常勤講師、井戸理恵子さんによる「職人のこころ」がスタートする。今年3月まで「フジサンケイビジネスアイ」で連載した同名タイトルの〝続編〟。伝統工芸に携わる全国各地の職人たちと20年以上前から交流を図り、彼らの技術や精神を目の当たりにしてきた井戸さんが、日本が誇る職人たちの魅力に迫る。第1回は、自身の想いを交え、時代に流されず技に真摯(しんし)に向き合う職人たちから見えてくる〝大事なモノ〟について、つづっている。

 職人の方々との付き合いを通じて、「信頼」というものがいかに大切かということを実感させられる。縁のある人を大切にする。決して裏切らない。自らを厳しくいさめながら仕事に没頭する。そうしたありように幾度勇気付けられたかわからない。人は縁の中で動いている。

 しかしながらよい縁ばかりではない。失望させられることも、裏切られることも多い。その多くが間違った「保身」、偏ったプライドによるところが大きい。職人、少なくともわたしが古く縁をいただいてきた職人の方々にはそうした点がない。常に晴天の空を仰ぐように心がスッキリとしている。

 だから、かもしれない。都会で息苦しくなるほど、自らをアピールする人々やものと接し、必要としない意味のない情報の中に浸されていると、彼らに無性に会いたくなる。失われた日本の面影を彼らのそぶりや言動から思い描く。彼らの技術に潜む心は古い日本の風景そのものなのだ、と確信する。ひたすら懐かしく、心を穏やかにしてくれる存在なのである。近代化が進み、民俗学の採訪が行き詰まったとき、日本、この国の文化は職人にリアルに残されているのでは、ということが確信に代わり、随分楽になった。

 日本の隅々に行き渡る機械的なネットワーク。同じような風景、同じような言葉、同じような表情の人々。ほんの二十年前くらいにはまだ残っていた日本、日本らしさがどんどん消えていく。そんな失望感が日増しに強くなっていた。

 民俗学という学問のテーマといえば、常に古き時代との邂逅(かいこう)が重要視される。しかも、それはある場所の、ある地域の人々の中に残っている記憶が足がかりのだ。一人の人の記憶ではなく、幾人かの人々の記憶の中から浮かび上がる生き抜くためのさまざまな技術。今という時代であっても日本という国に変わりはない。この風土で生活を営む人々を捉えるという点においては古きことばかりが日本ではなく、今ここにある現実の日本、そこに生息しているわれわれも確かに日本人であり、民俗学の研究の範疇(はんちゅう)だ。

 つまり、そうした現実そのものを捉えること自体が学問的には必要だと思う。しかし、人間というものは今を憂えると過去に逃げようとするらしい。過去を懐かしみ、心のよりどころとする。ある種、認知症が増えた原因とも言えそうなこうした現状。それを払拭し、逃げではなく、革新への足がかりであるということを教えてくれたのも職人だった。

 彼らの現実は常に厳しい。しかしながら、伝統に生きる職人は「技術は変えずとも時代の要請に応じること」で生き遺ってきた。心を共にする人々がいる。よき人々が集まってくる。そこから生まれる確かなものがある。彼らの中に遺るさまざまな知見をより現代から先につなげるように心がけ、行動することが重要だと思えてくる。

 昔の人々は未来へ夢を持っていた。その夢の実現には過去をひもとき、過去から学ぶべきことがある。この国の風土がそれを教えてくれる。風土と密接につながる職人との交流は地に根ざした、過去を生かす未来づくり。お盆だからというわけではないが、こうしたことを思い描くことが昔の日本人への供養になるようにさえ思えてくる。


 <プロフィール>

 井戸理恵子(いど・りえこ) 民俗情報工学研究家。1964年北海道北見市生まれ。國學院大学卒。多摩美術大学非常勤講師。ニッポン放送「魔法のラジオ」企画・監修。ゆきすきのくに代表として各種日本文化に関わるイベント開催。オーガニックカフェ「ゆきすきのくに」にて自然食を提供。二十数年来親交のある職人たちと古い技術を訪ねて歩く《職人出逢い旅》など15年以上に渡って実施中。気心しれた仲間との旅をみな楽しみにしてくれている。主な著書に「暦・しきたり・アエノコト 日本人が大切にしたいうつくしい暮らし」(かんき出版)、「こころもからだも整うしきたり十二か月」(同)、「日本人なら知っておきたい!カミサマを味方につける本」(PHP研究所)などがある。

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