PR

ライフ ライフ

【明治の50冊】(24)国木田独歩『武蔵野』 郷愁誘う自然美の描写

Messenger

 急発展する東京に武蔵野の面影はなく、除外すべきだが、町外れは〈大都会の生活の名残と田舎の生活の余波とが此処(ここ)で落合って、緩やかにうずを巻いているよう〉で、そこに「社会の縮図」を見てもいる。

 「武蔵野」など全18編を収録した小説集は岩波、新潮両文庫で累計120万部超のロングセラー。「武蔵野」は文庫版で30ページにも満たないが読み継がれ、文学史に名を残している。

 武蔵野大学文学部の土屋忍教授は「いわゆる美文で描写の模範になった。声に出して読むと耳に心地よい。万葉集にも詠われた武蔵野という地名が日本人のDNAには懐かしく感じられ、失われゆくものの名残や面影を想(おも)うノスタルジーを喚起する。このタイトルの力も大きい」と見る。

 一方、現代の若者が関心を持ちそうなアプローチもある。武蔵野は、独歩が結婚したものの5カ月で破局した佐々城(ささき)信子との思い出の地でもあった。

 〈今より三年前の夏のことであった。…三崎町の停車場から境まで乗り、其処(そこ)で下りて北へ真直(まっすぐ)に四五丁ゆくと桜橋といふ小さな橋がある〉

 東京都武蔵野市の玉川上水沿い、桜橋脇に建つ「国木田独歩文学碑」には「武蔵野」からの引用文が刻まれている。桜橋周辺も信子と訪れ、独歩の死後刊行された日記「欺かざるの記」に〈接吻又(ま)た接吻〉した(28年8月24日)記述も。

 「失恋の乗り越え方というか、過去を作品で更新している。つらい記憶を糧にして形にできるのが文学で、それを見事に実践した」という土屋教授は、こんな提案もする。

続きを読む

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ